2025.10.15
毎日の保育にすぐ使える! 簡単&運動あそび講座

第2回特別編 運動遊び対談 佐藤弘道×澤田康徳「身体を動かすって、楽しい!」──さわだ先生の 毎日の保育にすぐ使える! 簡単&運動あそび講座

第2回特別編 運動遊び対談 佐藤弘道×澤田康徳「身体を動かすって、楽しい!」──さわだ先生の 毎日の保育にすぐ使える! 簡単&運動あそび講座

そんなシンプルな喜びが、実は“心の土台”を育てている――。
テレビ番組『おかあさんといっしょ』の体操のお兄さんとして全国の親子に笑顔と運動を届けてきた佐藤弘道さん。
そして、保育現場を中心に「遊びながら動きを育てる指導」で注目を集める有限会社さわだスポーツクラブの澤田康徳さん。
現場と理論、子どもと親、保育園と家庭……様ざまな視点から語る“運動あそび”対談です!

体操インストラクター、タレント 佐藤弘道×有限会社さわだスポーツクラブ取締役社長 澤田康徳

乳幼児期の動きと運動遊びの重要性

澤田:保育園に行って感じるのは、立ったり座ったりといった日常動作すら難しい子が増えていることです。昔ながらの動きや遊び、階段を使う機会も減っていますよね。

佐藤:和式トイレや畳といった生活様式がなくなって、立つ・しゃがむといった動きが生活の中から消えてきていますよね。ハイハイも十分にやらないことで、背骨の成長や関節の可動域に影響している。だからこそ、運動遊び指導が大切なんです。

澤田:保育現場からは「集中力がなくて座っていられない」という声もよく聞きます。

佐藤:筋力の発達が未熟なせいでしょうね。運動は「動」だけではなく「静」もあるのですが、両方をバランス良く教えられる指導者が少ないのも原因かもしれません。

澤田:でもそれって日常の保育の中で解決できると思うんですよ。

佐藤:そうですね。ただ保育士さん達は運動指導の専門ではないので、僕らが助ける形で入れれば理想的だと思います。僕らに指導を任せっきりにする先生がいますが、子どもと一緒に身体を動かしてほしいですね。先生自身の健康にも繋がりますし。

澤田:運動遊びに加え、「想像できる遊び」も入れるといいと思っています。ここは海の中だよ、タコになって泳ごうとか。動きだけじゃなく、想像力を広げられる。

佐藤:他の学びにも繋がりますよね。タコの絵を描いたり、図鑑で調べたり、骨や筋肉など自分の体について知ったり。運動にも探究的な学びの要素はあると思います。

澤田:運動遊びから広がる学びの価値をもっと共有できたらいいですね。

親子の触れ合いの重妻性

澤田康徳さん

澤田:ここ数年、園でも親子の関わりを増やそうという動きがあって、親子遊びの機会が増えました。弘道さんの曲もたくさん使わせていただいています。

佐藤:ありがとうございます。

澤田:親子遊びをすると、親子の関係がすごくいいなと思うんです。滑り台滑って終わり、ブランコ漕いで終わりではなく、親子で体を使った遊びの中で「うちの子ってこんなにできるんだ」と驚かれることが多いですね。

佐藤:大学院での研究の結果なんですが、親子体操で子どもの運動能力は確実に向上します。さらに、親子体操は子どものための体操だと思われていますが、親の健康度も上がるんですよ。特にメンタル面での効果が大きくて、ストレスの軽減や抑うつ度の改善、睡眠の質も向上します。

澤田:納得です。親子の触れ合いって、低年齢のうちはやるけれど、大きくなると運動会くらいで終わってしまってもったいないと思っています。1~2歳児だけではなく、それ以上の年齢でも必要ですよね?

佐藤:小学生でも必要だと思いますよ。今の子って抱っこや肩車の経験が少ない印象がありますし、上の子は甘えることを我慢させられがち。親子体操は、子どもの体重を感じられ、かつそれが筋力や柔軟性のトレーニングにもなって一石二鳥です。こうしたエビデンスがあると親御さんへの説得力も増します。

澤田:親子で触れ合うことで幸福感や満足感が高まるし、年間を通してできるといいですよね。

佐藤:僕は親子体操普及員の養成講座をやっているんですけど、体操に限らずヨガや栄養士の先生も学びに来て、各方面で活動してくれています。

澤田:スポーツクラブでも学ばないといけませんね。親子体操や運動遊びって大人向けの指導とは別物だと思うんです。

佐藤:個々の運動年齢に合わせた指導が必要ですからね。

保育者の声かけ術と指導者の役割

佐藤弘道さん

佐藤:先生という言葉に囚われすぎて、子どもに教え込もうとする人が多い気がします。何をしたいか、どうするのか、もっと子どもに聞いていいと思います。僕は声かけするとき、知らないふりをするんです。「教えて」という姿勢で関わると、子どもが教えてくれる。

澤田:それ、以前ある園長先生もおっしゃっていました。「それが学びに繋がっているんだよ」って。
毎日子どもを預かって全部教え込むのは先生もしんどいと思います。子ども達から引き出して、逆に子どもが先生になって教えるような流れができれば、自主的な学びにもなって、先生も余裕が出るのでは。

佐藤:先生も疲れた時は「疲れた」と言っていいと思います。「誰か先生の代わりをしてくれる?」と聞くと、手を挙げてくれる。そういうのも学びですし、先生の負担軽減にもなる。先生がのびのび明るくしていないと、子ども達ものびのびできないよね。

澤田:そうなると、園長・理事長先生への働きかけも必要ですね。
あと、僕は声かけの時に声の大きさを大中小で使い分けているんですが、多くの先生は一定のトーン・大きさで話しているんですね。それで「どうして子ども達は澤田先生の言うことを聞くんですか?」とおっしゃるんです。

佐藤:僕らは短時間だからできるという面もありますけど、子どもがざわついている時はあえて小さい声で話すと静かになるとか、そういうテクニックも使うと変わってくると思います。

澤田:弘道さんのように長年この世界にいる方から、僕達現場の人間に言えることってありますか?

佐藤:芯をずらさないようにすれば、園によって違っていいと思います。僕らが運動遊びで伝えているのは「自分の命を守る動き」。単なる遊びに見えても、ちゃんと意味がある。

澤田:運動遊びは、12歳くらいまでの子どもにとって、みんなで楽しめて学べる運動の土台になるものだと思います。そこから独自プログラムを発展させたり、スポーツや習い事に進んでいけばいいと思うんです。

佐藤:早くから特定のスポーツばかりやると、体の歪みが出てきてしまいますし、バランスの取れた運動遊びを並行してやると良いんですよ。結局、普段の生活すべてが運動だから、それを遊びを通じて習慣化することが将来の健康に繋がるんです。

澤田:運動習慣は大事ですね。保育園で既に肥満傾向の子を見かけます。園庭がない小さな保育園も多いですし。

佐藤:運動遊びは何もないところでも自由に体を動かせるというのがベースになっていて、遊具も器具も必要ないし、室内でもできる工夫がたくさんあるのでぜひやってほしいです。

澤田:指導者が身体のことを理解し、運動遊びを学び、保育者と助け合いながら保護者と連携していくのが、子ども達にとって一番良い形だと強く感じています。昔の生活習慣や日本独自の遊びや童謡、テンポなども運動と繋がっているので、大切にしていきたいですね。

佐藤:そうですね。乳幼児期に一番大切なのは、多種多様な動きを通して友達と関わること。そうやって「命を守る力」が育っていきます。僕らがやっていることって、実はとても大きな意味を持っているんですよね。

(MiRAKUU vol.52掲載)

佐藤 弘道(さとう ひろみち)
  • 体操インストラクター、タレント、医学博士 佐藤 弘道
  • 体操インストラクター、タレント、医学博士

    1968年7月14日生まれ。東京都新宿区出身。A型。
    弘前大学大学院医学研究科博土課程修了。
    NHK「おかあさんといっしょ」の第10代体操のおにいさん。愛称は「ひろみちおにいさん」。
    趣味はゴルフ、ドライブ、水泳、スキー(SAJ1級)、スキューバダイビング等

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  • 『ひろみちお兄さんの運動あそび』世界文化社/『ほねときんにくをげんきにする ホネキンシアター』世界文化社
  • 佐藤弘道さんの著書
    『ひろみちお兄さんの運動あそび』世界文化社
    『ほねときんにくをげんきにする ホネキンシアター』世界文化社
澤田 康徳(さわだ やすよし)
  • 有限会社さわだスポーツクラブ 取締役社長 澤田 康徳
  • 有限会社さわだスポーツクラブ取締役社長

    日本体育大学出身。
    都立久留米高校サッカー部「中村憲剛元選手」と同期。
    特技:子どもを楽しませること
    趣味:世界中を旅行すること

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