2025.06.23
保育園訪問【Web限定版】

わかば森のこども園──自然の中で「生きる力」を育む園づくり

わかば森のこども園──自然の中で「生きる力」を育む園づくり
わかば森のこども園 園長:江田 政聡さん

宮崎県都城市の自然豊かな西岳地区にある「わかば森のこども園」。
過疎化が進むこの地域で、子ども達の心と体を育む“森の保育”を実践し、今や市街地からも多くの園児が通う人気園となっています。
今回は、園の取り組みと理念について、江田園長にお話を伺いました。

わかばの森こども園の概要を教えてください。

当園は2018年4月に、幼保連携型認定こども園として再スタートしました。もともとは「上長飯認定こども園」の分園として定員10名で始まりましたが、今では認可園となり、園児数も35名を超えました。
場所は都城市の西岳地区で、面積は市全体の1/6もあるのですが、人口は約1,400人と過疎化が深刻な地域です。高齢化も進み、子育て世代も少なくなっています。

過疎地域での挑戦だったのですね。どのように園児を集めたのですか?

2018年に他園を視察して、自然環境を活かした教育法を学びました。そしてまずは園のロゴやホームページを整備し、「自然をテーマにした主体的な教育」を軸に据えました。

2020年には園庭を「森のゲレンデ」と名づけて改修し、自然の中で五感を使って学べる環境を整備しました。子どもたちは野菜の栽培から調理・食事までの一連を経験します。

園バスも2019年から導入し、現在は複数台で市街地からの送迎を行っています。「自然の中で心が癒される」と、保護者の方からも好評をいただいています。自然環境の中にいるだけで、発達に不安のある子も元気に走り回るようになったケースもあり、驚きと喜びを感じています。

食育などは行なっているのですか?

はい。食育にはとても力を入れています。たとえば「西岳米」という霧島連山の冷たい湧水で育てられた、甘みのあるお米を使っているのですが、そのお米を子ども達と一緒に精米しに行って、羽釜で炊いて食べるんです。外で火を焚いて炊くこともありますし、雨の日などは室内で。子ども達は稲刈りから経験します。赤ちゃんはおんぶして、2〜3歳の子どもも一緒に田んぼに行くんです。

地域の方々もとても協力的で、稲刈りや脱穀、竹を使った「かけ干し」なども経験させていただいています。
こうした自然乾燥の工程まで関われるのは本当にありがたいことで、子どもたちもDVDで昔のお米の作り方を見ながら「これやったことある!」「これこども園のお米だ!」って反応するんです。だから、ご飯もすごくよく食べます。うちの子たちは本当によく食べますよ(笑)。

畑でもさつまいもの苗植えから収穫まで一通り経験します。マルチ張りや畝作りも子ども達と一緒に行い、収穫だけで終わらせないようにしています。すべての工程を経験することで、どこから野菜が来ているのか、どれだけ手間がかかっているのかを、体感として学ぶことができるんです。

春には竹林にたけのこ掘りにも行きます。河原でその場でゆがいて、掘りたてを食べるんですよ。シイタケやわらびも育てたり採りに行ったりして、それを子ども達と一緒に料理して、たけのこご飯などにして食べます。

こども園で行うことすべてに、ただ“やらせる”のではなくて、「植えるところから食べるところまで」全工程を経験するという意味を込めています。見せるだけでなく、できるだけ“自分でやる”ことを大切にしていて、「大人が全部やってあげるのではなく、子ども自身が考えて動けるようになること」が目標です。

こうした経験が、子どもたちの創造性にも繋がっていて、たとえばマインクラフトの「マイクラカップ」という大会に参加した時も、日々の生活で水やりや収穫を経験しているからこそ、「お花に自動で水が出る仕組み」を作品の中で表現したりしているんです。それを見た時は、本当に感動しました。日常の中で感じた“たいへんさ”や“工夫”が、自然と遊びや学びの中に生きているんだなと実感しますね。「マイクラカップ」では約300~400チームがある中、奨励賞という4位~13位がもらえる賞を取ることができました。

具体的にはどのような保育内容なのですか?

多様な経験を重視しています。例えば、森のゲレンデでは果樹や昆虫、動物と触れ合うことができ、外遊びを中心に保育を行なっています。

特徴的なのは、自然との距離感の近さ。街中の園でも自然教育は取り入れていますが、当園では山の中にあるため、オニヤンマや蛇など、本当に自然のままの生き物が園内に現れるんです。

また、保育者が教えるのではなく、一緒に経験しながら子どもが学ぶスタイルです。図鑑で調べる姿や、自ら文字に興味を持つ様子など、自然と知育にも繋がっています。

家庭や地域との繋がりについてはいかがですか?

6年前から、ホームページやSNSで毎日園の活動を発信しています。写真とコメントで園児の成長や気づきを共有し、保護者だけでなく地域の方や祖父母、入園していない子育て世代の方々にもご覧いただけるようにしています。

また、年度末には保護者にお子さんの1年の写真データをSDカードでお渡ししています。

園として特に大切にしていることを教えてください。

大切にしているのは以下の3つです。

  1. 大人も子どもも人格や個性を尊重すること
  2. 子ども達を丁寧に育てるという職員全体の共通認識
  3. 「勉強」よりも「夢中になれる環境・時間」の提供

たとえば、園では「○○したら駄目」という声かけをやめました。また、目標を職員が与えるのではなく、子ども自身が見つけることを大切にしています。

職員の質を高めるための取り組みはありますか?

専門性の向上を目指し、園内研修では全員で同じ書籍を読む活動を行っています。例えば星野リゾートのビジネス書などを園長から送迎バスのドライバーまで、みんなで読んで意見を交換します。

一部の職員だけの研修ではなく、共通認識を持つことを大切にしているんです。

この園で育った子どもたちに、どのように育ってほしいと考えていますか?

私達の教育の目指すところは、「主体性」と「社会性」を兼ね備えた子どもです。子どもが自ら考え、学び、周囲の人の気持ちも思いやれるようになる——そんな人間に育ってほしいと願っています。
教育とは「指導」ではなく、「勇気づけること」だと思っています。子どもが自ら進んでいけるように、私達はその背中をそっと支えていく存在でありたいです。

わかば森のこども園

わかば森のこども園:編集後記

住所

〒885-0221
宮崎県都城市高野町3090-2

アクセス

JR九州日豊本線 都城駅より車で約26分
高崎観光バス 西岳農協前バス停より徒歩3分
都城志布志道路 乙房ICより車で約20分

開園時間

開園時間 月~土 7:15~18:45

連絡先

TEL:0986-33-1810