2026.01.15
教えて!川邉先生

第38回 世界の幼児食育から学ぶ〈後編〉──成長と安全を支える食事のあり方──

第38回 世界の幼児食育から学ぶ〈後編〉──成長と安全を支える食事のあり方──教えて! 川邉先生~子どものお悩み解決します

前回に引き続き、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、アメリカなど世界各国の幼児食育の特徴と工夫を紹介し、特に日本の幼児食における窒息リスクへの対応と各国の食事形態の違いに焦点を当てて考察します。

日本の窒息リスク対応と世界の食育から学ぶバランス

5-1 日本と世界の幼児食の違い──窒息リスク対応の比較

日本と世界各国の幼児食における窒息リスク対応の主な違いは以下の通りです。

側面 日本 世界(特に北欧・欧米)
基本姿勢 リスク回避型(禁止・細分化) リスク管理型(教育・経験)
食材の大きさ 極めて細かい(特に3歳未満) 適度な大きさ(咀嚼を促す)
禁止食品 多い(特に3歳未満) 少ない(適切な提供方法を重視)
子どもの関与 受動的(提供されるものを食べる) 能動的(自分で選び取り分ける)
食べ方指導 保護者中心(細かく切り与える) 子ども中心(自分で対処法を学ぶ)
咀嚼の重視 やわらかい食事が中心 しっかり噛む習慣を早期に育成

例えば、ブドウという同じ食材に対する対応を見ると

日本
1歳未満は禁止、それ以降も皮をむき、縦4等分に切り、さらに横にも切る

北欧・欧米
4等分に切る(皮はそのまま)、年齢に応じた安全な食べ方を教える

これらの違いは、単なる安全基準の差ではなく、子どもの発達をどう捉えるかという根本的な教育観の違いを反映しています。

5-2 窒息リスクと食育のバランスを考える

日本の窒息予防は安全面で優れていますが、以下のような課題も見られます。

  1. 早期の咀嚼機能発達への影響
    • 極めて柔らかい・細かい食材ばかりだと、噛む力が育ちにくい
    • 口腔機能の発達遅延が報告されている
  2. 食の多様性と食体験の制限
    • 禁止食品が多く、食材との出会いが限定される
    • 様ざまな食感を経験する機会が少ない
  3. 自立心と食への主体性の発達
    • 過保護な食環境が自分で判断する力を弱める可能性
    • 「危険だから避ける」より「安全に食べる方法を学ぶ」視点の不足

一方、北欧・欧米の食育からは以下の点が参考になります。

  1. 五感を通じた食育(SAPEREメソッド)
    • 視覚・触覚・嗅覚・聴覚・味覚を通じた総合的な食体験
    • 好き嫌いを超えて食材を多角的に理解する姿勢
  2. 子どもの主体性を尊重する食事環境
    • 自分で選び、取り分け、食べる経験
    • 食事のセッティングや後片付けへの参加
  3. リスク管理と教育的アプローチの統合
    • 禁止するのではなく、安全に食べる方法を教える
    • 年齢に応じた責任と自己管理能力の育成

5-3 日本における新しいバランスの提案

  1. 段階的な食材導入と経験
    • 窒息リスクの高い食材も完全に禁止するのではなく、適切な形で経験させる
    • 例:豆類は最初は潰して提供し、徐々に歯ごたえのあるものに移行
    • 例:りんごはすりおろし→極小の角切り→適度な大きさの薄切りへと段階的に進める
  2. 五感を重視した食育アプローチ
    • SAPEREメソッドを日本の食育に取り入れる
    • 食材の感触、香り、音などを楽しむ活動を増やす
    • 好き嫌いを超えた食材への多角的理解を促す
  3. 安全かつ自立を促す食事環境
    • 大人が常に見守りつつも、子ども自身の挑戦を尊重
    • 年齢に応じた自己決定と責任の機会を設ける
    • 「禁止」より「適切な食べ方」のモデリングと教育
  4. 家庭と保育・教育現場の連携
    • 一貫した食育方針の共有
    • 発達段階に応じた適切な食材提供の基準づくり
    • 食育研修の充実と最新の科学的知見の普及

窒息予防は最重要課題ですが、それを過度に強調するあまり、子どもの食への興味や自立心、咀嚼力の発達を妨げることは避けるべきです。安全と発達の両立を目指した、バランスの取れた食育アプローチが求められています。

おわりに

世界各国の幼児食育の特徴と日本の現状を比較検討してきました。それぞれの文化や歴史的背景に根ざした食育アプローチには、学ぶべき点が多くあります。
日本の幼児食では窒息予防を徹底する一方で、子どもの自立心や食への興味、咀嚼力の発達も同時に考慮する必要があります。北欧の五感を通じた食育、ドイツの共同体験としての食事、アメリカの科学的根拠に基づく多面的アプローチなど、世界の食育から学びつつ、日本の食文化に適した新しい幼児食育のあり方を模索していくことが重要です。
子ども達が食を通じて健やかに成長できるよう、安全への配慮と発達支援のバランスを取りながら、家庭と社会が連携して食育に取り組んでいきましょう。

(MiRAKUU vol.53掲載)

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川邉 研次(かわべ けんじ) 経歴
  • 川邉 研次
  • 新橋 未来歯科 院長

    姿勢咬合セミナー主幹(27年以上続く姿勢と噛み合わせの歯科医師向けのセミナー)
    Ken'sホワイトニングセミナー主幹

    1984年静岡県菊川市にかわべ歯科を開業。2011年新橋に未来歯科開業。
    従来の疾患中心型治療ではなく、「細菌単位でのお口の中のリスクを知り、その結果に基づき改善していく」「食事内容の分析・アドバイス」「姿勢指導や、呼吸などのアドバイスによる体質改善」「患者様の未来の目標設定」をコンセプトにした「予防」診療を行う。
    歯科医・歯科衛生士向けの各種セミナー、DMMでのオンラインサロン等も精力的に行なっている。

    『かわべ式 子育てスイッチ ~生まれた瞬間からグングン発達する88の秘訣』(エッセンシャル出版社)好評発売中。

    ホームページ:https://miraishika.com/

    未来歯科アカデミー:https://miraishika.com/academy/

    未来歯科アカデミーでは実際に未来歯科に来ていただくほか、リアルタイムでの質問も受けています。