「こどもかいぎ」のトリセツ 特別インタビュー──豪田 トモさん
話題の映画『こどもかいぎ』が書籍に!
「こどもかいぎ」のトリセツとは一体……? 詳しい内容を豪田監督にインタビューしてきました!
堀川:映画の反響はいかがでしたか?
豪田:反響はものすごく良くて、明日から『こどもかいぎ』を始めようというお声が多かったです。全国各地の園や保育士会のみなさんの反応が大きくて、とてもありがたかったですね。
堀川:実際に『こどもかいぎ』に取り組んでみて、そこから変化したというお話は聴いていますか?
豪田:『こどもかいぎ』をする前は、例えばけんかが起きると先生が仲裁に入って、とりあえず謝らせるといったことが普通に行われていたけれど、『こどもかいぎ』をするようになってからは、子ども達自身で仲裁したり、お互いの意見を聴いて自分達で解決していったりするようになったり、そもそもけんかが減った、という話をよく聴きますね。
堀川:そういう反響を受けて本を作ることになったのですか?
豪田:4年かけて映画を作る過程で、子どもの声を聴けば聴くほど、「子ども達に発言と対話の場を作る」ということはすごく重要だと思うようになりました。世の中の流れを見ても、話し合えばいいのに話し合えないことで暴力的に解決しようとする事象は事欠きません。そもそも僕ら大人達が対話やコミュニケーションの仕方を全然学んできてないというのも大きい気がします。
それもあって、映画を作ると同時に、精神科医、小児科医、心理カウンセラー、ファシリテーション協会など、色いろな専門家の方にも入ってもらって、『こどもかいぎ』のやり方、対話の場の設け方、ファシリテーション方法の「トリセツ」を作ってwebで無料公開していたんです。
その後映画を観て『こどもかいぎ』を始める園がすごく増えて、もっと知りたい、手元に欲しいというご要望をたくさんいただいたので、本にまとめようと。
堀川:そういう訳だったのですね。
実際にこの本を読むと、各園でも『こどもかいぎ』ができるようになるのですか?
豪田:保育士さん、子ども相手のお仕事をされている方、また、お子さんがいる方は、子ども達が何を考えているのか、子どもの心の声を聴いてみたいと思われるんじゃないかと思うのですが、この本を読んでいただいたら、魔法のように子ども達の心の声が聴こえるようになると思います。
以前、僕は娘と対話するのにちょっと苦労していて(今も苦労していますが(苦笑))、自分で得たスキルを使って場を作ると、格段に話してくれるように
なりました。我が子が考えていることを知れるというのは、すごく幸せですよね。子どもとうまくコミュニケーションが取れないというのはとても悲しいことだし、子どもの声を聴けるようになると、子どもと接するのがさらにさらに楽しくなるし、やりがいも出てくるんじゃないかなぁと思うんです。
高学年ぐらいになってくるとだんだん話さなくなるというのはありがちですが、小さな頃から話を聞いてもらえる環境を作ることが大事になってくるのかなと思うんですよね。
堀川:そのスキルがこの本にまとまっていると。
豪田:「話の聴き方の3つのポイント」「ファシリテーターがやってはいけない7つのNG事項」「場づくりの5つのポイント」など、子ども達の声を聴く方法や場づくりの方法を、出来る限り、端的に分かりやすく、「伝える」のではなく「伝わる」にこだわって書かせていただきました。
ちなみに、話を聴く側の最大のNG事項って何だと思いますか?
堀川:自分の意見を言わない。とかですか?
豪田:正解です! もちろん意見を言ってもいいんですが、「しゃべりすぎない」ことが大事です。
子どもが話す前にどんどん話しちゃう大人は多いですよね。かつての僕もそうだったかもしれません。自分の意見を言うことに慣れていない子どもにとっては、自分の意見を出しにくくなってしまいますし、先生や保護者の考えって、子どもにとっては正解のように聴こえてしまい、自由な発想を妨げてしまう、など様ざまな弊害があります。
こういったことを一つひとつ、知れば知るほど、目の前のお子さんにとって適した場を作ることができ、子ども達の心の声を聴き出せるようになるのでは
ないでしょうか。
堀川:ファシリテーションなんて、きっと保育の学校では習いませんよね。
豪田:そうですよね。だけど、少子化に向かっていく日本がこれから生き残っていくためにも、目の前のお子さん達が将来、成功と幸せを掴みやすくするために、発言と対話の場を作ることは絶対に必要だと強く思っています。
他の国では幼少期から対話活動をしていますし、子ども達の意見を小さい頃から聴く文化・習慣があります。学校でも、先生が一方的に教えるのではなく、お題に対して話し合って、ブラッシュアップして最後にプレゼンテーションするといったアクティブラーニングが主流です。でも日本はまだそういった場が少ないので、早急に場を作っていかないと今の子達は生き残れないのではないでしょうか。
少子化になり、経済大国から転落すれば、今まで以上にグローバルなマーケットに出ていく必要が高まりますから、現状のままいけば、この子達は将来、圧倒的に不利な環境に放り出される可能性すらあります。
海外でイノベーションがどんどん生まれるのは、『こどもかいぎ』の習慣によってアイデアを積み重ねていく、というコミュニケーション技術も大きい
のではないかと思っています。僕ら日本人は、小さい頃から発言と対話の場がないし、自分の感情を言語化する訓練もしてない。それを聴いてもらう、伝えるという経験もしていない。
でも、日本人でもこういった場を作っていけば、きっと20年後には自分の意見を伝えて、相手の意見を聴きつつ、対話的に問題解決を図り、アイデアを積み重ねて、イノベーションを生み出せるようにもなるのではないかと思います。これは現状、世界で2番目に低い子ども達の幸福度の向上にも関係していくんじゃないでしょうか。
堀川:この「トリセツ」を読んでも、まだわからない場合はどうすればいいでしょう?
豪田:少し遠回りな言い方になりますが、『こどもかいぎ』をしていくことで、先生達自身にもコミュニケーション力がついていきます。子ども達と一緒に追いかけっこしている間に体力がついていく、みたいな感じです(笑)。そうすると、お互いに話すこと、聴くことの技術が上がるので、対話がしやすくなるし、例えば、会議でも意見が出やすくなったりして、職場の人間関係もすごく良くなっていくんですよ。
このトリセツ本はかなり色んな想定が書いてありますが、もしそれでも書いていないことが起きた時は、それこそみなさんで対話して、どうしたらいいかを話し合っていただくのがいいのではないかなと思います。
堀川:特にここは読んでほしいという部分はどこですか?
豪田:トリセツそのものとはちょっと外れますが、最後に、恐縮ながら、保育教育現場のみなさんへのエールを書かせていただいています。保育の現場は、子どもを見守る奥義と感性、才能を持った優秀な方々が、人間の根っこと社会の基礎を作るべく日々奮闘されている、日本の未来を作る最前線だと思うんです。ちょっと元気がない時、うまくいかないなぁと悩んでいる時、ここだけでも読んでいただいて、また子ども達と向き合う力になったらいいな~!……という願いを込めました。
そういう意味では、この本は保育士さんに対するラブレターというか、感謝状みたいなものでもあります。コミュニケーション術もそうなんですが、この本から醸し出される僕の「保育ラブ」を感じ取っていただけたら嬉しいです。
(MiRAKUU vol.45掲載)
書籍
「こどもかいぎ」のトリセツ
(中央法規出版)
書籍『「こどもかいぎ」のトリセツ』を読者プレゼント!
- 豪田トモ(ごうだ とも)
1973年東京都出身。中央大学法学部卒。6年間のサラリーマン生活の後、映画監督になるという夢を叶えるべく、29歳でカナダへ渡り、4年間、映画製作の修行をする。在カナダ時に制作した短編映画は、数々の映画祭にて入選。
「命と家族」をテーマとしたドキュメンタリー映画『うまれる』(2010年/ナレーション:つるの剛士)、『ずっと、いっしょ』(2014年/樹木希林)、『ママをやめてもいいですか!?』(2020年/大泉洋)は、累計100万人を動員。2019年小説『オネエ産婦人科』(サンマーク出版)を刊行。
2022年7月、映画『こどもかいぎ』(ナレーション:糸井重里)を劇場公開。