美しいもの、楽しいこと、幸せなことは世の中に溢れていると伝えていきたい──上田真理さん
飼い主の問題が動物に表れる
堀川:上田さんは今どんな活動をされているのですか?
上田:現在は絵本作家として活動しています。もともとは動物、主にペットのことを飼い主さんにお伝えしたり、飼い主さんのご相談に乗ったりという活動をしていました。
堀川:動物とお話できるとうかがったのですが。
上田:はい、できますよ。
堀川:すごい。動物と意思疎通をするコツはあるのですか?
上田:動物は言葉なんて話せない、そんなのわかるわけないとは思わないことです。人間の赤ちゃんだって言葉は話せないけどわかりますよね。
堀川:確かに!
小さい頃から動物に関するお仕事に就きたい、絵本作家になりたいと思っていたのですか?
上田:そこまでは考えていませんでしたが、物心ついた時から絵はずっと描いていました。動物も好きだったんですが、父があまり好きではなかったので飼えなくて、結婚してからそのフラストレーションが爆発した感じです。
結婚直前にたまたま猫を1匹保護して、そうしたら不思議なことに毎年猫を保護することになって。自分で飼える頭数も限られているので里親を探すようになり、動物保護活動を始めました。絵本を作ったのはその延長線上です。
堀川:動物保護活動と絵本が繋がっているということなのですね。具体的に絵本を描こうと思ったきっかけはあるのですか?
上田:保護活動の中で、噛んだり吠えたりという動物の問題行動についての相談を受けることが多くありました。色いろと勉強をして考察していくうちに、そもそもの問題は動物自身というより、飼い主さんやそのご家族にあることがほとんどだということが分かってきたんです。家族が悩みや不安、心配を抱えていると、それが動物の行動に表れるんですね。そこに飼い主さんに気付いてほしいという想いが強くなりました。
そこで、私が保護活動自体に限界を迎えていたこともあり、保護活動は一旦中止して、そもそもの原因である飼い主さんの想いや、動物のことをきちんと知るということを伝えるという啓蒙啓発活動に切り替えていきました。
動物への想いを絵本に乗せて
堀川:それが絵本に繋がるのですか?
上田:はい。私は絵が描けるので、啓蒙啓発活動として本当に簡単なイラストを繋げて動画を作り、Facebookで流したんです。もうすぐ旅立つワンちゃんが今までの楽しい思い出を振り返って、幸せだったよありがとうと飼い主さんに話しかけるお話です。すると思わぬ反響があって、紙の絵本にしてくださいというメッセージをたくさんいただきました。
堀川:それが1冊目の『ぼくがうまれてきたのはね』ですね。
絵本はどういった方に読んでもらいたいですか? やはり動物を飼っている方でしょうか。
上田:最初はペットの飼い主さんに読んでほしいと思って作っていましたが、それ以外にもたくさんの方が読んでくださったんですね。
2冊目の『しかたないからおしえてあげる』は、猫が後から生まれた人間の赤ちゃんに色いろなことを教えてあげる話です。猫ですから、今まで教えてきた大切なことをあなたの大切な人に教えてねと先に旅立ってしまうのですが。そういった内容なので、ペットと飼い主という関係だけではなく、親の気持ちや子どもの気持ちに重ね合わせて読んでいただけると思います。
私の本は誰でも読めるように全部ひらがなになっていますし、お子さんからご年配の方にまで読んでいただけると嬉しいです。
堀川:上田さんの本を子どもに読み聞かせする時に、どういう感じで読み聞かせしたら良いでしょうか?
上田:2冊ともワンちゃん猫ちゃんが旅立ってしまうという、結果的には悲しいお話なんですが、そこに焦点を当てるのではなく、生きているうちにこんな素晴らしいことがあったよ、死は決して厭うばかりのものではないんだよという気持ちで読んでいただけたらなと思います。
私も「絵本のお母さん」として娘の小学校で読み聞かせをしていました。私が大事にしていたのは「間」ですね。ちょっと面白い場面に来たら溜めてから読むとか。子どもの反応を見ながら、一緒に笑ったりして一緒に楽しみながら読むと受けが良かったです。
子どもも動物も大人の影響を受ける
堀川:実際に動物を飼っている園へ、動物への接し方などアドバイスはありますか?
上田:お世話をする人が固定ではないということもあって、知識がない方が多いなというのが正直なところです。
同じ命で感情を持っているので、飼うのであればまず動物のことを知ってほしいと思います。ただ飼っているだけではモノと一緒になってしまう。そうではなく、まずは大人、先生方が動物の生態を知り、こんな風に気を付けないといけないんだよ、こういう風に扱うんだよということを子ども達に伝えていただけたらと思います。
堀川:今後の展望を教えてください。
上田:この雑誌が出る頃には3冊目の『しあわせのたね』が発売されていると思います。この本は本当の幸せに気付くというのがテーマになっています
の世の中って、本当に色いろなことがあって、大変な時期だと思うんですね。ニュースを見るとどうしてもそこに焦点を当ててしまって、心配になって暗くなってしまう。すると子ども達もそういう親を見て心配になってしまうし、動物達もその影響を受けてしまいます。
気持ちが暗くなってしまうようなこともあるけれども、本当は美しいもの、楽しいこと、幸せなことは世の中に溢れているので、そこに目を向けてほしい。それをお伝えすることを、これからも私は絵本やSNSを通しやっていきたいと思っています。
堀川:読者の方へのメッセージをお願いします。
上田:いつも、これからの社会を作っていく大切な子ども達を育てていただいて本当にありがとうございます。本当に大変なお仕事だと思います。そんな中、ちょっと落ち込んでしまったり苦しくなったりということがあるでしょうが、子ども達はそういう感情を敏感に感じ取るので、まず保育士の皆さんが楽しいこと、幸せになることをしていただけたらいいなと思います。
(MiRAKUU vol.45掲載)
- 上田真理(うえだ まり)
イラストレーター活動の傍ら、動物保護活動を10年以上継続。動物と会話ができるアニマルコミュニケーターとして500組以上の動物や人と関わり、ペットロスに苦しむ飼い主とペットのコミュニケーションサポートも行う。
絵本の構想は、その中で出会った動物たちとの会話から得たもの。
現在は大阪府在住、7匹の愛猫と暮らしながら、「人と動物の本当の幸せ」についてSNSやブログで発信している。