イラストを通じて子どもの頃の夢いっぱいの気持ちを思い出してもらえたら嬉しいです!──イシグロフミカさん
幼稚園の先生から工作もできるイラストレーターに
編集長:どのような雑誌でお仕事をされているのですか?
イシグロ:主に幼稚園や保育園の先生が読む保育雑誌や、子ども向けの出版社さんが出されている各誌の仕事をしています。挿絵や、今の時期だったら年賀状など先生達が使う素材を描いていますが、どちらかというと壁面飾りの工作が多いです。
編集長:もともと製作物が得意なのですか?
イシグロ:そういうわけではないんです。イラストレーターになる前は幼稚園に勤務していたので、出版社さんにイラストを売り込む中でその話をすると「工作をやってもらえないか? 得意ですよね」という流れになって。実は工作は苦手ではないものの人並み程度だったので、最初の頃はすごく時間がかかってしまったり、あまり納得いかないものを納品せざるを得なかったりして悩みました。でも、継続してご依頼くださる出版社さんもあり、だんだんコツもわかってきて、やっぱり慣れですね(笑)。工作もできるイラストレーターさんは少ないようで、続けていくうちに需要が増えたという感じです。
編集長:もともとは幼稚園の先生だったのですね。いつ頃から幼稚園の先生を目指したのですか?
イシグロ:初めから幼稚園の先生を目指していたわけではないんです。小さい頃から絵が好きでノートの端っこや友達との手紙に絵を描いていて、イラストレーターになりたかったんです。けれど私の地元三重県では、東京と違って周りにイラストレーターとして活躍している人がおらず、どうやってイラストレーターになればいいのかまったくわからなくて。親にはイラストレーターになりたいということは伝えたんですが、当然反対されますよね(笑)。当時はそれに逆らってまで、というパワーがなかったので、子どもが好きということもあって第二志望の幼稚園の先生になりました。
編集長:それからどうしてイラストのお仕事をするようになったのですか?
イシグロ:幼稚園に勤めながらもイラストを描くことは続けていて、手作りのものを販売するイベントにちょくちょく参加していました。あくまで趣味だったんですが、園に勤めていると直に子どもに触れるので、子どもを生き生き描けるようになり、表情や動きを見ていて子どもの絵を描くのがどんどん楽しくなってきたんですね。それに、今お仕事しているような先生用の雑誌を見る機会が増え、かわいいイラストを見るたびにやりたい気持ちが高まってきて。
そのうちに、後ろめたさを感じるようになってきました。周りの先生達は100%子どもに愛情を注いでいて、私だってもちろん注いではいるのだけど、心のどこかで「幼稚園の先生もいいけどイラストレーターにもなりたいな」とチラチラ思っている自分が子どもに申し訳ないような気がしてきたんです。子どもと向き合う幼稚園の仕事はすごく好きだったので、だからこそ余計に後ろめたくて。それで、こんなにイラストレーターが気になるんだったらすっぱり幼稚園を辞めて一回真剣に目指してみよう、その方が子ども達にとってもいいんじゃないかと思って、上京することにしたんです。
アイデアは100円ショップや雑誌から
編集長:製作のアイデアが思い浮かばなくて大変という経験もあると思いますが、先生方にアドバイスをお願いします。
イシグロ:私の場合は頭で考えるより見る方が思い浮かぶので、色いろなものを見るのが一番ですね。たとえば100円ショップに行ってビニールやホースなどを見て「もしかしてこの素材使えるんじゃない?」とか「このスポンジは絵の具を塗るのにいいかも」など、なんとなく自分が作りたかったものと一致させるようにしています。
イラストなどのデザインだったら、絵本や情報誌などを見ることが多いです。ハロウィンやクリスマスなど季節イベントの特集を見てアイデアを思いつくというのもあると思います。
編集長:先生方が壁面などの製作をする上で重要な部分は何だと思いますか。
イシグロ:私は季節感を大事にしたいので、クマやウサギでも夏ならノースリーブを着せたり冬ならマフラーをつけたりするといいなと思います。雑誌での壁面製作紹介でも、一から作る豪華な壁面というよりは、このパーツだけ作ればOKとか、葉っぱなど同じ形でもいろんな色で作ると華やかになるとか、簡単にかわいくというのが主流になっているようです。そうやって1年間一緒ではなく、ほんの少しでも季節感を取り入れた変化をつけて、子ども達に気付きがあるようにしてあげると良いのではないでしょうか。
「絶対こうしなくてはいけない」と思わないで
編集長:雑誌などでのイラストや製作以外にセミナーなどをされているのですか?
イシグロ:今までは一般の方に向けてイラスト講座をしていました。最近、転職フェアなどで保育士さん向けに製作のワークショップをさせていただいています。
私は「私の作った型紙通りじゃないとダメ」とは思っていなくて、目の位置や洋服の形など先生達が自由に決めてもらって大丈夫だし、園の壁面飾りでも雑誌に載っているものをそのまま作るよりも子どもの様子を見て変える、たとえば子ども達の間で流行っているものを加えるなどのアレンジがあった方がいいと思うんですね。なので、先生達も最初は緊張して「見本通りにきれいに作らなきゃ」と思われているようなのですが、「見本通りに作らなきゃと思わなくていいですよ」と一言お伝えすると、先生達もアイデアが出てきて楽しく作られています。
子どもも一緒ですよね。保育士さんが「これを作りましょう」と見本を見せますけど、上手に作れない子もいるし、曲がっちゃうとか折れちゃうって当然ありますよね。その時に「見本通りじゃない」「失敗しちゃった」という感じで心に残ると工作が嫌いになっちゃうので、どんな出来でもどんな作品でも「それ素敵だね」と肯定して、子どもが「これで大丈夫なんだ」と思えるようにするのが大事かなと思います。
編集長:そうですよね。僕も幼稚園の時に紙粘土でゾウを作ったのですが、親がそれを見て大爆笑して、それから図工が嫌いになりましたから。
イシグロ:絶対そうなると思うんですよね。絵を描くのでも、空は水色で塗る子が多いけど、ピンクに塗りたいとか、黒で塗る子もけっこういたりするんです。でもそれはものすごくピンクが好きだったり、夕焼けなのかもしれないし、黒い空もお天気が悪い空を表現しているのかもしれない。「空は青でしょ」じゃなくていい、自由に塗っていいと思っています。
編集長:最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
イシグロ:絶対こうしなくてはいけないと思わないことです。「毎月季節に合わせた壁面を作って子ども達を迎えなくちゃ!」と真面目な方ほど思ってしまうのですが、先生の追い込まれた気持ちは子どもも敏感に察知するので、自分を追い込まずにこやかに子どもに接するのが一番だと思います。壁面にしても飾りにしても先生の手作りじゃないとダメということはなくて、先生が「これがあったらいいな」と思って選んだものなら市販のものでもいいですし、十分子どもにも伝わると思います。
あと、園の人間関係に悩む保育士さんのお話をよく聞くのですが、もしそんな状況になってしまったら、あまり思いつめすぎずに、別の園に転職するという選択肢もある、ということを忘れないでいてもらえたらと思います。壁面作りや工作と一緒で、「こうじゃなくちゃいけない」ということはないと私は思っています。どこでも合う合わないはありますし、人生のステージで働き方も変わってくると思うので、物事を柔軟に考えて、楽しく保育に取り組んでもらえたらと思います!
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イシグロフミカ
幼稚園の先生を退職後、フリーのイラストレーターに。幼稚園での勤務経験を活かした、元気でかわいい子どもや動物のイラスト・工作制作などを中心に、雑誌・書籍などで活躍中。
また保育室の壁面飾り製作のほか、親子で楽しめる工作やイラストの出張ワークショップも行なっている。著書に「1 、2 、3 ですぐかわイラスト」(学研)「親子でいっしょに 季節の手作りあそび」(日東書院) 「親子でつくる てづくりおもちゃ」(講談社)など多数。幼稚園や保育園のイベント用飾り付け「かわいいパネルやさん」の運営。工作やイラストの出張ワークショップのご相談もお気軽にどうぞ!