2015.01.15
MiRAKUU対談

運動を通して人間の土台を作る:佐藤弘道

運動を通して人間の土台を作る──タレント・親子体操教室主宰 佐藤 弘道さん



子どもの頃から自由に体を動かす楽しさを知ってほしい

佐藤弘道さん

編集長:佐藤さんの体操教室では、どのような体操の技を教えているのでしょうか?

佐藤:僕の幼児向け体操教室では、技を教えてはいません。
幼児期の運動は体作りと心作りに大きな影響を与えるという考えのもと、体操を通して人間の根っこ作りをしっかりと行うことを大切にしています。
そのため、「動き作り・体作り・心作り」という3つの作りをテーマに、集団の中での子ども同士の関わり方を学び、ボディバランスを整えることを目標に体を動かしています。

編集長:なるほど、運動を通して人間の土台を作るということですね。
幼少期から動き作りを行えば、運動嫌いの子も運動を好きになりますか?

佐藤:まず、生まれつき運動が嫌いな人は一人もいないと思います。なぜなら、運動とは生活の一部だからです。
子どものころからあまりルールに囚われすぎず自由に体を動かす楽しさを知っていれば、大人になっても体を動かすことが好きになると思いますし、それが健康に繋がるポイントだと思います。

編集長:体を動かすことが好きになれば、大人になってからの運動不足解消にも繋がるということですね!
では、幼児期にはどのような運動をしておくべきだと思いますか?

佐藤:「○○の動きをやれば良い!」というわけではなく、一つの運動に絞らないことが大切だと思います。様々な運動を通してたくさん物や人に関われば、自ずと心と体が育ちます。

編集長:やはり運動を通した学びにこそ価値があるのですね。
では、そもそも佐藤さんは、なぜ子ども達に運動を教えようと思ったのですか?

佐藤:僕が幼児の世界に足を踏み入れるきっかけとなったのは、「おかあさんといっしょ」というNHKの番組でした。
元々インストラクターとして活動していたので、他人に何かを教えることは苦ではありませんでしたが、子どもは大人に教えることとは勝手が違い、試行錯誤の繰り返しでした。
しかし、子どもに対して教えることができるようになると、子どもからお年寄りまで全ての年齢の人々に指導することができるようになりました。
NHKの体操のお兄さんを辞めてからは、自分の生活の中で子ども達に関わりたいと思うようになり、体操教室を開いて個人で子どもに体操を教えるようになりました。

編集長:子どもに体操を教えるうえで、一番大変だったのはどのような部分ですか?

佐藤:大人と同じように話しかけても、うまく話を理解してもらえないということです。最初はどうしていいか分かりませんでしたが、少しずつ自分の引き出しが増えてきて、子どもに注目してもらうためのコツや、子どもを集合させるためのコツ、子ども達に行動させる理由などが分かるようになり、子ども達の導き方を理解していきました。

子ども達に話を聞いてもらう時のコツは「逆モーション」

対談風景

編集長:佐藤さんが発見した、子どもを集めるコツや集中させるためのコツを保育士さん達に紹介したいのですが、教えてもらえますか?

佐藤:いいですよ。僕が最初に習得したのは、「逆モーション」です。子ども達に話を聞いてもらいたい時こそ、大きな声で注目を集めようとするのではなく、あえて小さな声で話しかけます。そうすると子ども達は、もっとよく話を聞こうと集まってきてくれるのです。この技を身に付けてから子ども達の指導が格段にスムーズになりました。
子ども達を注目させる時は、まず興味を持ってもらうことから始めると良いと思います。「今から何か面白いことをやるぞ」という雰囲気を出すと、子ども達は「楽しいことがあるかな」「褒めてもらえるかな」と思い、何も言わなくても自然と注目してくれます。

編集長:子ども達に興味を持ってもらうことがポイントなのですね。
では、他に保育士さんに伝えたいメッセージなどはありますか?

佐藤:そうですね、「子ども達にさせる運動や体操のポーズには一つ一つ意味がある」ということをしっかり理解してほしいと思います。
例えば、はいはいの姿勢で部屋の端から端まで移動する運動がありますが、これには転倒した時の怪我の予防という意味があります。転んだ時、自分の腕で自分の体を支えられないと顔や頭に怪我を負ってしまうので、それを防ぐ意図を持っているのです。
動き一つとっても、大切な役割や意味が含まれています。子どもに何かをさせる時は、その意味や理由一つ一つをしっかりと把握して指導に当たってもらいたいと思います。

編集長:当たり前のことですが、ただ漫然と「こういうものだから」と思考を停止させて指導に当たってはいけないということですね。
運動の意図する働きも、成長段階によって違うものになると思うのですが、同じ年齢でも成長段階が違う子どもに対しては、年齢で分けた一律の指導はしない方が良いのでしょうか?

佐藤:一概にそうとも言えないと思います。できない子ができる子を見て「ああいう風になりたい」と思って行動するようになるのは良いことですし、できる子ができない子を教えるというのも子ども同士の関わりあいとして非常に良いことです。
子ども達がそういう風に動くことができる環境を保育園で作ってあげられるなら、一律の指導も良いと思います。
逆に言うと、先生が全て仕切ってしまう指導状況は良くないと思います。先生や親はあくまでサポート役で、その中で子ども達が自立を目指していけるような環境を作ってあげることを大切にしてください。

編集長:やはり子どもの自主性を育てることが何よりも大切ということですね。
では、保護者に伝えたいメッセージはありますか?

佐藤:子どもの躾は親の義務だということを伝えたいです。
保育園や幼稚園は、躾をする場所ではなく集団教育を行う場所です。個々でやらなければいけないことは家庭で教え、集団でやらなければいけないことは、集団教育に特化している保育園・幼稚園で教えるべきだと思います。
それに、幼少期にきっちりと躾をしてあげないと、子どもが恥をかいてしまいます。子どものためにも、自分自身の身の周りのことはある程度できるように教えてあげてください。
僕自身も、幼い頃は最低限の挨拶や箸の持ち方、洋服の畳み方などをよく注意されました。例えば、タンスの端に洋服が挟まっていると「お洋服が挟まっているよね? あれが自分自身だったらどう思う? 痛いよね? どうすれば良いのかな?」というような遠まわしの注意を受けました。しかし、この遠まわしな注意方法は「なぜ駄目なのか」が分かりやすく、自分の中で納得できたのをよく覚えています。

編集長:なぜ叱られているのか、なぜそうしなければいけないのかを子ども自身が理解して、納得することが一番良いということですね。保育士も保護者も、子どもに何かをさせる時は自分自身が行動の意味を把握していなければいけないということが良く分かりました。
では最後に、MIRAIKUの読者に向けてメッセージをお願いします。

子どもに関わる仕事は、未来を作る仕事

佐藤:子どもに関わる仕事は、未来を作る大切な仕事です。
保育士さんには、未来を作る素晴らしい仕事をしているという自覚を持ち、子ども達にとっての一番身近なお手本になれるように胸を張って保育の道を歩んでもらいたいと思います。
また、子どもに関わる仕事だけが未来作りではありません。
例えば川や海を綺麗にする活動や、植林をして森を増やす取り組みも全て子ども達のための環境作り、ひいては未来作りに繋がります。
保育士さんに限らず、一人でも多くの方に「子どものための未来作りに参加している」という意識を持ってもらえれば、きっと子ども達のための素晴らしい未来が出来上がると思います。

編集長:大人が一丸となって環境作りを行えば、より良い未来を子ども達に残してあげることができますね。
佐藤さん、本日は本当にありがとうございました!

佐藤 弘道 経歴
  • 佐藤 弘道


    1968年7月14日、東京都新宿区生まれ。
    日本体育大学体育学部卒業後、世田谷区教育委員会の教育指導員を経てスポーツクラブのインストラクターとなる。
    1993年NHKおかあさんといっしょオーディションに合格。
    同年4月よりNHK「おかあさんといっしょ」第10代目体操のお兄さんを12年間務め、体操のコーナーだけでなく、イベント、歌のクリップなどでも活躍し、2005年3月に体操のお兄さんを卒業。
    TV番組や舞台、イベントなどに出演する傍ら、2002年1月、有限会社エスアールシーカンパニーを設立。
    子供たちと指導者のためのスポーツクラブを立ち上げ、全国で親子体操教室や幼児体操教室、保育士講習会などを行う。

    ブログ:https://ameblo.jp/sato-hiromichi/