工作を通して、子ども達に伝えたいこと:久保田雅人
大切にしているのは、自分が楽しみながら作ること
編集長:久保田さんがNHK番組「つくってあそぼ」を担当することになったきっかけを教えてください。
久保田:当時の私は劇団に所属していたのですが、同じ劇団に田中真弓さんという声優さんが在籍していました。その人の紹介で受けたNHKのオーディションに合格して、「つくってあそぼ」を担当することになりました。
編集長:そういうきっかけだったのですね。ノッポさんから番組を引き継いだ時、「ノッポさんとは違うことをしよう」と考えましたか?
久保田:ノッポさんという偉大な先輩が居るというプレッシャーは感じていましたし、他人から様々な点で比較されることもありました。しかし、これからこの番組は私とゴロリ君が引っ張っていくのだと思い、ひたすら一生懸命頑張り続けました。ノッポさんとは違うことをやる、ノッポさんを超えるなどと考えたことはありません。
編集長:久保田さんが番組で紹介した工作は、どのくらいレパートリーがあるのですか?
久保田:自分で数えたことがないので正確な数は分かりませんが、細かい物も含めると数百種類以上あると思います。
編集長:数百種類以上もあるのですね! 工作の対象年齢は保育園・幼稚園児向けが多いのでしょうか?
久保田:「つくってあそぼ」自体が保育園・幼稚園児向けの番組でしたので、ほぼ全てが3歳?7歳の子どもを対象とした工作です。
編集長:その中で、一番子ども達が喜んだ工作は何ですか?
久保田:「風船送りゲーム」です。ポリ袋に空気を入れて、輪ゴムを何個も繋げたヒモで頑丈にした風船をビーチボールのように投げ合って遊びます。これは大勢で遊ぶことができる工作なので、保育園で作るのに向いていますし、穴が開いても簡単に修理することができるので子ども達は全力で遊ぶことができます。
保育園のイベントでこの工作をする時は、家では作れないような大きな風船を作るので、子ども達は大喜びします。
編集長:大勢で遊べる工作は良いですね! 工作をする上で大切にしていることはありますか?
久保田:大切にしているのは、自分が楽しみながら工作をするということです。
私は、自分が楽しいと思えるから他人に楽しさを伝えられると考えています。嫌々やっていたら相手にもその気持ちは伝わりますし、自分が楽しんで「こうやってみてほしい、こうやったらもっと楽しい」と考えるからこそ、相手に工作の楽しさを伝えることができると思っています。
「つくってあそぼ」を担当していた頃も、「伝える」ということを一番重要視していました。あの番組で一番大切だったのは、わくわくさんとゴロリ君が本当に楽しんで工作をしているのかどうかという点です。「つくってあそぼ」は一回も台本通りに進んだ回がありません。しかし、アドリブを入れるとディレクターさんはいつも「本当に楽しそうだ。わくわくさんは台本よりも、アドリブいっぱいの楽しさを大切にして欲しい」と言ってくれました。楽しみながら作る方が伝わるということを気づかせてくれたのは、このディレクターさんかもしれません。
保育士さんも子ども達と工作をする時は、まず自分が楽しんで欲しいと思います。
編集長:まず自分が楽しむって素敵ですね! 久保田さんにとって、仕事のやりがいは何ですか?
久保田:子ども達の笑顔です。工作をしている時の子ども達の顔が、私の最高の喜びです。あの笑顔を見る度、工作をしていて良かったと思います。
編集長:なるほど、子ども達の笑顔が久保田さんの活力なのですね。では、久保田さん自身は子どもの頃から工作が好きだったのですか?
久保田:小さい頃から何かを作ることが大好きで、プラモデルもたくさん作りました。凝り性だったので、飛行機を作る時はプラモデルのセットと共に、飛行機の写真集を買っていました。セットに付いていない部品を、写真集を見ながら自分で作って飛行機に足していき、本物そっくりに作るのが好きでした。
編集長: 本格派ですね!! ご両親も工作やものづくりが好きだったのですか?
久保田: 父がとても器用な人で、自分で家の物を作るのが得意でした。家にはほとんどの大工道具があったのではないかと思います。家庭にあるノコギリというと、普通は一本か二本ですが、細工用のノコギリも含めて父は10種類以上持っていましたし、木に穴を開けるノミも20?30種類ほどありました。
編集長:その道具で日曜大工をしていたのですか?
久保田:休みの日になる度にものづくりをしていたというわけではないのですが、一度始めると完成度の高い物を次々と作り出す人でした。私の凝り性は父からの遺伝かもしれません(笑) 父は大工とは何も関係のないサラリーマンでしたが、私は子ども心ながらに「何故父は宮大工にならないのだろう」と思っていました。
編集長:久保田さんはお父さんの影響を強く受けたのですね。
久保田:はい。しかし、父に直接何かを教わったことはありません。父は典型的な昭和の男でしたので、「見て覚えろ!」というスタンスでした。
小学生の頃に鉛筆削りを買って欲しいとねだったところ、「男ならナイフで削れ」と言われたこともありました。私の指先が器用になったのは、そういう教育を受けてきたからかもしれません。
編集長:現在では、保育士向けに工作の講習会やイベントなどの活動をされていますが、このような活動を通して参加者にどのような事を伝えたいと思いますか?
久保田:保育士さんに限定したことではありませんが、工作を通して私が一番伝えたい子育てへのメッセージは「お金をかけずに手間をかける」です。
また、保育士さんの持つ引き出しは多ければ多いほど子どものためになるので、身近な物で簡単にできる工作や遊びをたくさん知っていて欲しいと思い、イベントを行っています。
「つくってあそぼ」で工作をしていた時も、材料は文房具屋や百円均一店で揃う物ばかりでした。
夢は一生工作を続けること
編集長:工作を通して、子ども達にはどのようなメッセージを伝えたいですか?
久保田:物を修理することの大切さを伝えたいです。
自分が使っている物が壊れたら何回でも修理をして、ボロボロになるまで使い切ってから捨てるという経験があるからこそ、物の大切さを実感できるのだと思います。しかし、今の日本は利便性を優先した、お金を出せば何でも買えて壊れたら捨てるということが常識の社会となってしまいました。だからこそ、今一度、子ども達には「もったいない」の本当の意味を知ってもらいたいと思います。
編集長:久保田さんの目標や、これからの夢は何ですか?
久保田:一生工作を続けることができたら良いと思います。毎日新しく生まれてくる子ども達に、自分で物を作る楽しさを伝え続けたいです。
編集長:今の子ども達が成長した時、どんな大人になっていて欲しいと思いますか?
久保田:興味がある分野のプロフェッショナルを目指す、職人気質の大人になってくれれば良いと思います。
私が長い間、テレビ業界に身を置いて感じたのは、今の世の中はプロが少なくなったということです。だからこそ、一つのことに夢中になって打ち込める子ども達を育てる保育士さんが増えると良いと思います。
編集長:では最後に、MIRAIKUの読者に向けてメッセージをお願いします。
久保田:保育士とは、人を育てる素晴らしい職業です。だからこそ誇りを持ってチャレンジして欲しいと思います。大変な職業ですが、子どもを育てる楽しさを忘れないで下さい。壁にぶつかった時は、色々な立場の人に相談を持ち掛けてみて下さい。きっと様々な意見が返ってきて、視野が広がると思います。
編集長:まずは自分が保育を楽しむ気持ちが大切ということですね。
久保田雅人さん、本日は本当にありがとうございました。
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久保田 雅人
1961年8月8日生まれ。
立正大学文学部卒社会科教員免許取得
NHK「つくってあそぼ」のわくわくさんでお馴染み。
番組放送時から全国の幼稚園、保育所等で公演活動、親子工作教室活動を展開中。ホームページ:http://www.kubota-masato.com/