主体性も運動も「遊び」から──小林よしひささん
体操のお兄さんになれたのは体操との縁
編集長:子どもの頃から体を動かすことが好きだったんですか?
小林:すごく好きでした。ジャッキー・チェンのアクション映画などを母が見せてくれて、真似して遊んでいましたね。その影響もあって体操教室に入り、小学生の間はずっと体操をやっていました。4年生ぐらいから剣道も始めて、中高はずっと剣道。実は剣道歴の方が長いんです。
編集長:そうなのですね。体操のお兄さんになったきっかけは?
小林:大学で体操部に入ったんですが、体操教室の先生がこの体操部のOB だったんです。そして、この部から体操のお兄さんが何人か出ていました。でもその時点では興味はなくて、卒業後は体操部のコーチと大学の研究室の助手をしていました。1年経った頃体操のお兄さんのオーディションの話があり、受ける学生の引率がてら面接を受けて。
編集長:受かったと。
小林:はい。目指してきたわけではなかったのですが、よくよく考えてみると、体操との出会いをはじめ、色いろなことが繋がっていくことはあって、結果的に体操のお兄さんになれたのかなという感じはします。
編集長:体操のお兄さんの思い出深いエピソードを教えてください。
小林:泣かない子がいない日はないですし、子ども同士のトラブルも毎回いっぱいあって、それが当たり前のような状態でしたね。たまに何も起こらない日があるんですが、むしろその方が出演者が緊張するという。
編集長:笑)。
小林:一番記憶に残っているのは娘が生まれた日の収録です。それまで、収録に来てくれる子、番組を見てくれる子達が1番だと思ってやってきたんですが、生まれてきた自分の子を見た瞬間に、この子が1番なんだと思ったんですね。収録に向かいながら、これから会う子達は2番なんだな、なんて思っていたんですが、実際子ども達に会った時に、この子達はお父さんお母さんにとっての1番なんだ、1番の集合体がいるんだと気づいたんです。そうしたら、より子ども達が輝いて見えて、大切に思えて。14年間、色いろなことがありましたが、体操のお兄さんをやっていないとできなかった経験を最後にできたというのが、自分の中ではとても嬉しい、思い出深い瞬間ですね。
子育ては自主性と共有を意識して
編集長:ご自身の子育てで一番大切にしていることは何ですか?
小林:子どもの自主性、主体性です。勝手に決めつけたり押し付けたりするのではなく、極力子どもに選ばせる、しっかり子どもと会話をすることを大事にするというのは夫婦で決めてやっています。
投げっぱなしにしないというのにも注意しています。もちろん、こちらが手を離せない時にYou Tube やテレビを見させることはあります。でも、一緒に見ている場合なら、ぼーっと見るのではなく、内容に対してこうだよね、ああだよねと一緒に話しながら見るようにしています。
編集長:一緒に踊ったりできて、娘さんも楽しいでしょうね。食育アドバイザーの資格をお持ちですが、食についてはいかがですか?
小林:私は体操のお兄さんを務めた14年間の間で1度も風邪などで穴をあけたことがないんですが、自炊をしていたからかなと思います。食ってすごく健康に直結していて、大事ですよね。
もともと母が料理上手で、よく自分も手伝いをしていて、わりと早いうちから自分で料理していました。資格を取ったのは妻の妊娠がきっかけですが、生まれてくる子にもそういう食育をしてあげたいという気持ちがありました。栄養を考えてとにかく食べさせるということではなく、一緒に買い物に行くとか、一緒に作ってみるとか、一緒に食べて会話するとか。食育に限らず、押し付ける、放置するのではなく、共有することを意識してやっています。
運動にこだわらず、遊びを膨らまそう
編集長:現在コロナ禍で、子どもの運動不足が気になる人も多いと思います。お勧めの運動を教えていただけますか?
小林:私は、運動しなきゃというよりも、遊ぶことが大事なんじゃないかと思っています。家の中だと運動できていないように感じるかもしれませんが、そこにある環境で子ども達は色いろなことを考えながら遊びを生み出していけるので、そういった遊びをもっと膨らませてあげれば、運動に繋がってくるのではないかと思います。
最近、ソーシャルディスタンスの2mをキーワードにして遊びを考える企画がありました。新聞紙を横に広げて2枚半くっつけるとちょうど2mになるんです。新聞紙を細長く切って並べ、その上の歩くという遊びを考えた子もいましたし、新聞紙の上に靴下や帽子、鞄などの朝準備するものを置いて、準備を何秒でできるかという遊びを考えた子もいました。2m程度の広さでできるし、コロナとの向き合いもできるし、ソーシャルディスタンスの距離も理解できるし、自主性をもって自分達で運動遊びを考えてみることもできて、とても面白かったのでお勧めです。
編集長:運動が苦手な子に対しては、どうしたらいいでしょう?
小林:運動を嫌いにならないようにするのが大事だと思っていて、それを繋げてくれるのが遊びだと思うんですね。たとえば走ることが苦手な子には、走ることに特化した遊びを無理やりしなくても、みんなと同じように遊べるようルールを変更してやってみると楽しくできるということもあります。苦手なことを無理にやらせることで運動が嫌いになってしまってはもったいないので、遊びを大事にしてほしいと思っています。
編集長:今後の展望を教えてください。
小林:今後は体操教室もやっていきたいですね。体操というよりは遊びという感覚の教室、主体性が鍛えられるような教室にしたいと思って、準備をしている段階です。
指導者の方に対して、私ならではの経験を伝えていくというような講習会もしていきたいなと思っています。
編集長:読者へのメッセージをお願いします。
小林:もともと大変な職業だと思いますが、コロナ禍ということで、より大変な状況が続いている中で頑張ってくださって、本当に感謝しています。
子どもの主体性を出せるような日本になってほしいなという想いがあり、その中心を担うのは先生方だと思っています。ぜひ「遊び」をしっかり子ども達としていきながら、子どもの主体性を出せるような教育をしていってほしいと思います。
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小林よしひさ(こばやし よしひさ)
1981年、埼玉県生まれ。日本体育大学卒業。2005年~2019年NHK・Eテレ「おかあさんといっしょ」体操のお兄さんを歴代最長14年間務める。卒業後も得意な料理や運動能力を活かし、バラエティ番組、CM等で活躍。子ども向けイベント、体操指導など活動の幅を広げる。YouTubeチャンネル「よしお兄さんとあそぼう!」も人気。「第10回イクメンオブザイヤー2020」芸能部門受賞。