社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループ──育てているのは未来。私達は子ども達と社会の20年後を創るために存在しているのです
あすみ福祉会についてについて教えてください。
昭和54年に埼玉県入間市で開園し、今年で40年となります。入間市は狭山茶の名産地。茶畑の中にあるので茶々保育園と名づけました。その後は特に待機児童が多い場所を重点的に園を増やし、現在は15園を運営しています。
理念は「オトナな保育園」。子どもを一人の人間として尊重して捉えていくということ、その子ども観そのものが理念であり、私達の存在意義だと思っています。子どもだからこの程度でいいなどと子ども扱いをするのではなく、子どもも私達も基本的に同じ人間だという視点で、将来社会を支えていく人になる彼らをどのように育てていくかというのが根っこにある考え方です。
このコンセプトを基に、具体的にどういう活動をしているのですか?
オトナといっても、もちろん子どもを無理やり大人っぽくさせるという意味ではありません。子どもは子どもでいて良い。ただ私達が整える環境は本物でありたいということです。
たとえば、子どもはお店屋さんごっこをよくやると思いますが、経験を“ごっこ”だけで終わらせて良いのだろうかと思い、子ども達が育てたものや作ったもの、本当に商品として価値があるものに限って、本物のマルシェ(市場)を開き、保護者や地域の方々に提供するプロジェクトにしました。プロジェクトとしても、当日だけが大事なのではなく、保育の活動の中でみんなで話し合ったりという、それまでのプロセスを大切にしています。
また、保育者も実践と振り返りをし、ドキュメンテーションで保護者の方に伝えたり、自分達の気づきを蓄積することが大事です。はっきりいって、こういうプロジェクトは大変です。しかし、スタッフがこの理念を大事にしていて、「ごっこ遊びも素晴らしいけれど、社会に出ていくという本物の体験にしたいよね」と思えるから実現できるのです。
茶々の保育園にはカフェがありますね。
今は15園中5園にあります。子ども達がお客様にお茶を煎れることもあります。私達は子ども達が社会と接する機会をいかに作っていくかを考えています。保育園は安全でなければいけない分、閉ざされてしまうという側面があります。それで、カフェというオープンな場所を作って、子ども達もそこへ出てこられるようにしたのです。保育園の中に世の中と接している場所があるということです。子どもも市民の一人であって町の人達と繋がっているし、社会に何らかの寄与ができるんだというのが「オトナな保育園」の考え方。社会と接していくというのはどんどんやっていきたいと思っています。単にお散歩に出るだけが外ではないのです。
先生の質の向上のために行なっていることはありますか?
子どもの主体性やアクティブラーニングを推進する保育者はどうあるべきなのかと考えた時に、アクティブラーニングをする人はアクティブワーキングをしていなければ意味がないと思いました。つまり、能動的に、自ら実践し学びを深めチームワークを大切にしていくという主体性がスタッフに望まれるということです。子ども達だけアクティブで大人は受け身なんてありえないし、良い保育でもなんでもない。「学び」というとインプットだと思いがちですが、実はアウトプットの方がより学びになるし、蓄積されていくのです。そもそもスタッフはそれぞれ能力や個性を持っているのだから、それを発揮できるような、アウトプットできる場を作っていくということが大事です。大人が能動的な働きをすることが、子ども達のアクティブラーニングに繋がると考えています。
アクティブワーキングの一例で海外研修があります。行きたいタイミングは人によって違い、園長や主任になったから学びを深めたい人もいれば、新人でも行きたい人はいる。だから、行きたい人がプレゼンや論文を書いて応募するのです。熱意のある人が集まって、行く前からディスカッションをし、研修を終えてからもそれをどう活用してどう展開していくのかをとことん考える。年に1回、全職員が集まる研修があって、そこで報告発表をするんですよ。そうやってアウトプットすることで自分達の学びをより深めていくという狙いもありますね。
先生方の名刺はどのようにして生まれたのですか?
一般の企業に就職すると名刺を持たされますが、保育業界ではないことです。保育士や幼稚園教諭は世の中からあまり社会人として認められていないと感じます。それは世の中が彼らの社会性を低くみているからではないでしょうか。しかし、子どもを一人の人間として捉える時、一番身近な社会人である保育者の社会性は非常に重要です。そこで、名刺を作ることにしたのです。たかだか名刺一枚なんですが、自分の名前、所属園、肩書きが書いてあって、それを同僚ではない他人にお渡しする。そうやって自分を紹介していくというのは社会人の入り口としてすごく重要だし、その所作を通して意識が変わっていくのかな、と。遊び半分でもあるのですが、名刺の肩書は、園長が職員の個性を見て考えています。実際にスタッフの意識は変わってきました。
ここで育った子ども達に将来どうなってほしいですか?
コミュニティの中でしっかり役割を果たせる人になってほしいというイメージは持っています。私達はコンセプトの奥に「20年後を創る」というミッションを掲げています。20年後というのは、今、茶々にいる園児が大人になり、社会で何らかの役割を果たしている頃です。メジャーリーガーや政治家になることが目的ではなく、一人ひとりがそれぞれの場所で社会に寄与して役割を果たしてほしい。私達はその姿を想像して子どもと関わっていく。未来を育てていくという感覚なんです。
今後の展望を教えてください。
業界全体として、もっと乳幼児教育というものが社会の役割として非常に重要だということを世の中的に認知が深まればと思っています。そのためにできることとして、まずはあすみ福祉会での活動を深め、発信し、毎日丁寧な保育をしていくのが大事だと思っています。茶々という場所があって色いろな社会貢献をしている、茶々って面白いなというところから、茶々だけでなく保育って面白そうだな、保育士ってすごいな、という話がどんどん生まれる。そういう気運を作っていくのが僕のライフワークになりつつあるかなと思っています。
茶々といえば○○というと?
「オトナな保育園」。スタッフ達も口癖にしてくれていますし、これに共感するスタッフが今働いてくれていて、パワーになっているので。それ以外のことを出したらブレるので、やっぱりこのコンセプトですね。
社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループ
住所
〒162-0052
東京都新宿区戸山2-34-101