社会福祉法人 砂原母の会 そあ保育園──体験を軸とした毎日の保育がSDGsとリンクする
そあ保育園さんについて教えてください。
そあ保育園は、東京都葛飾区にあります。法人としては75年の歴史があり、葛飾区に1園、練馬区に1園を運営しています。そあ保育園は、約13年前にこの水元地域で保育を始めました。
自然から学ぶ、時間を忘れ遊ぶ、関わりあう生活を保育の柱に据え、体験を軸とした保育を行なっています。園庭や公園での自然との体験、2歳~5歳が共に過ごす異年齢保育での日常の特別な出来事ではない足元の体験を大事にしています。
2023年度より、幼保連携型認定こども園に移行が決定しています。今は新築園舎を建設している関係で園庭の大部分が使えません。だからこそ、方法に捉われず保育の本質を模索しながら保育に取り組んでいます。
SDGs に取り組んでいるとお聞きしました。
SDGs と聞くと難しい印象を持ちますが、私達の保育園では子ども達に「地球や隣にいる人に優しい気持ちを持つことだよ」と伝えています。ですから「今日はSDGs の○○を意識して○○をするよ~」という活動は本意ではないと考えています。そのような言葉掛けよりも子ども達それぞれが、どんなことを感じ、何をしたいのか。この意識を持ちながら一人ひとりのその子らしさを育てていくことが大切だと思っています。そのために、子ども達にたくさんの「大好き」に出会えるよう多くの体験活動ができる場を目指しています。特に、地球環境や色いろな人がいることの良さが育ちやすいことから、自然体験活動を多く取り入れています。
例えば、園庭には井戸水を利用したビオトープがあります。周辺や水の中には様ざまな生き物を見つけられます。また、園の近くには、豊かな自然環境に恵まれた水元公園があり、生態系も管理されていて、鳥がたくさんいます。
散歩で訪れた際に見つけた鳥が園庭にやってくることもあり、その鳥に気づく友達の声にまた違う子が反応する。そんな風に日々の保育で、生物の不思議や共生、そして、友達への感謝を「なんとなく」学ぶ、というように私達は日々の自然に感じる毎日の足元にある宝物の「なんとなく」の体験から学べることを大切に保育をしています。
SDGs は2030年までの世界の目指す目標です。これから、大人になる子ども達にとっては、SDGs が当たり前になっているはずです。
「大好きな地球や周囲の人に何ができるんだろう?」
そんな「大好き」と感じる体験を、子ども達と日々の生活で一緒にたくさん見つけたいと思っています。
保護者の保育士体験があるそうですね。
子ども達の保育園での姿を知ってもらうために、保護者の方に保育園の先生になって1日過ごしてもらいます。なぜ参観ではなく、保育士体験なのかというと、保育士の視点から家では見られない姿に客観的に気づいていただける機会になると思ったからです。
保護者の方は、自分の子どもの発達はどうなのだろうか。など、多くの不安を抱えているように思います。普段の保育を先生として体験することで視野が広がり、保育への理解が深まったように思います。また、保育園の先生というのはこんなに大変なのですねなど、様ざまなご意見もいただき、私達保育士にとっても保育の充実化を図るいい機会となっています。
保育の質を高める研修などは独自にされているのですか?
大分県臼杵市にある無人島で自然体験の研修を行なっています。無人島ですから、水道も電気もありません。もちろん貯蔵できる環境もないので、その日食べる食材も海で魚を釣るなどして調達します。
なぜこんな研修をするのかというと、自然の豊かさや「畏怖畏敬」を知ってほしいと思っているからです。日々の保育を行なっている場所は、職員自身が大自然の中で全身を使った自然体験をできる環境がありません。東京は自然が限られた環境下ではありますが、前述した通り子ども達には多くの体験をできる場をつくりたいと思っています。しかし、予知予見が難しい自然環境はリスクが高い現場です。事故を防ぐには、机上の研修では身につかない「直感」や「経験」が必要となります。そこで私達は数多くある自然体験の中でも最もレベルが高い無人島での研修をプロの方と協働し行なっています。無人島は何もないので、思いっきり遊ぶことのできる子どもに戻れる場所でもあります。
ある職員は研修前に「無人島は何もないというイメージ」と答えていました。ところが、無人島から帰ってきてからは「楽しいことだらけで忙しかった」と話していました(笑)。まさに無人島で頭で考えたことではない「直感」と「経験」を体得してきた様子でした。このような研修でないと学べない五感で感じ取った体験とスキルを活かし、日々の保育への自信と、自然の中での保育の質の向上を目指して目指しています。
ここで育った子ども達に将来どうなってほしいですか?
私は自分の大好きを元にして自分らしさを磨いて社会に還元できる子になってほしいと思っています。昨今では、子ども達の能力を伸ばすための活動やメソッドなど多くの方法が出てきていますが、本質は子ども自身の心が動くものであるかどうかだと思っています。
私達は子どもにとって何が大切なのかを考えた結果、自然体験や異年齢保育という方法を選んでいます。それは全て子ども達の体験を増やすことが主軸にあるからで、現状の方法に決して固執しているわけではありません。多くの体験から自分の大好きを見つけ、自分も周りも「幸せだなぁ」と感じられる人生を送ってほしいと思っています。
今後の展望を教えてください。
2023年度には、幼保連携型認定こども園に移行します。
現状の保育・教育をさらに、アップデートしながら、子ども達の「今」に向き合っていきたいと思っています。
そあ保育園といったら?
自然と人を大事にした体験の多い保育園だと思います。子ども達の学びや心を育てるには、全ては体験が土台になります。今後もより多くの体験を増やす保育園を目指していきます。