常石すくすくハウス──本物体験を学びに繋げ、ともに育ち合う保育を目指して
常石すくすくハウスさんについて教えてください。
1975年に創立した常石保育所が前身で、2019年にこども園に移行しました。当初は一般的な保育所で、1人の保育士が1クラスを担当、運営していく、一斉保育という形でした。しかし、保護者の要望や、子どもの個性、職員の特性や能力に左右される部分が非常に多く、保育にアンバランスさが出てきてしまったんです。職員一人ひとりのチームワークでこそ成り立つ保育の実践を目指し、保育や遊び、心理、園庭など様ざまな専門の先生方とともに学び続け、試行錯誤を繰り返し、今の形にたどり着いています。
園の特長は何ですか?
園庭が特長的だと思います。タイヤを利用した築山や、様ざまな果実のなる木々、地域の方々から頂いた井戸の枠や臼、丸太などがあるユニークな園庭です。昔はフラットなグラウンドに固定遊具のある園庭でした。その後、保育の透明性や発信を求められるようになり、いつでも誰でも本園の保育を目にし、感じてもらうためには、園庭を見える保育室に変えようと思ったのです。
園庭を変えたことで、素晴らしい変化がありました。
まず、子ども達。外に出る時は靴でも裸足でも良いことにしています。裸足の子は、室内に戻るときは足を洗って入るのですが、言って聞かせなくても、大きい子達がしているのを見てどんどん学んでいくんですね。異年齢保育にもなっているので、小さい子の面倒を見たり、教え合ったりという姿も当たり前のように見られるようになりました。どろんこ遊びをしたいから、自ら着替えをするように。
こういった形で、子ども達の学びが園庭でできるようになりました。
自然と体幹が鍛えられ、緩やかな坂や凸凹な地面もバランスをとりながらうまく歩きます。
怪我をする子やインフルエンザなど感染症にかかる子がぐっと減りました。体を使って遊び込むからか、お腹が空いてよく食べるようにもなりました。特化して訓練して体力をつけなくても、毎日の生活の中で遊んで楽しんで体ができていくという環境になったのです。
また、以前の園庭では、職員がボールや縄跳びを持って遊ばせに行くという職員主導での遊びになっていたのですが、今は子ども達が自分で選んで遊べるようになったので、職員はそれを見守る、対話する、観察するという保育に徹することができるようになりました。
保護者の方には、本園の保育を園庭の様子から理解していただくことも多く、良き理解者となり困難なクレームも減りました。
園庭を変えることで、子どもも保護者も職員も共に育ち合う関係性になったと思います。
保育をする上では、実体験で学ぶということを大切にしています。それを体現しているのが園庭ですが、室内の環境も同様に、バランスを取ったり、ぐっと力を入れたり、五感に前庭覚、固有覚を加えた七覚を遊びに取り入れています。バランスよく色いろな感覚を使うことは人間の育ちの過程にとって大切だと考えています。
さらに、全国各地から福山市へ移住、入学されている全国の公立初のイエナプラン教育校『常石ともに学園』との連携、学び合いは、本園にとっても大きな財産となっています。
保育士の教育で工夫していることは何ですか?
実習生を含め、初めて来た方には1対1でのゆるやかな担当制保育を体験してもらうために主に0歳児を担当してもらっています。0歳児の時期に自分が大事にされたという経験をすることは、それから先の情緒の発達にも関係すると思い、本園では0歳児保育を大切にしているので、まず体験してもらいたいのです。
1対1の御世話なので、職員は落ち着いて保育ができますし、子どもと向き合うことの基礎ができると思います。これを経験した上で他のクラスを経験してもらいます。
また、職員ごとの「日課」を作って、1日の子どもと職員の流れを見える化しています。これがあることで自分が何をすべきかがわかるので、迷いや不安がなくなります。
私達は保育が行き詰まった時、その人だけに原因を求めるのではなく、みんなでチームとなり、人と物と空間(時間)の3つを見直してみようと言っています。
どのような保護者サポートをしていますか?
福山市では出産前から入園予約ができるので、早くから見学に来られる方が多く、出産前からサポートしやすくなっています。
出産前から園に預けるまでの間をどう過ごせばいいか、子どもとどう接すればいいかということを伝える「すく育クラブ」を開催しています。これを始めてから、伝えたことを親御さん達が実践してくださって、入園する子が落ち着いて園に慣れるようになりました。子どもがすっと園に慣れてくれると、職員も落ち着いて保育ができるし、保護者も安心ですよね。
産前からサポートを始めることで、家でも園でも保育が違ってくると思います。
この園で育った子ども達に将来どうなってほしいですか?
遊びの中で培った、失敗してもなんとかなるという自信、そしてみんなで育ち合ったという2つをセットにして、意欲と思いやりを持った人になってほしいと思います。
小さな失敗はどんどん経験してほしいです。うまくいかなくてももう1回やればいい。そして、その子の居場所をここに作ってあげる。その記憶から、生きていればなんとかなるんだ、自分は生きていていい存在なんだという自信を持って、人生を生き抜いていってほしいです。
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今後の展望を教えてください。
育休を取るお父さんが増えているので、お父さんの育児サポートをしたいと思っています。父親は母親に比べると、育児の知識を仕入れる所が少ないと思うんですね。まずは近隣企業などに声をかけてやっていきたいと思っています。
また、私はなぜ学校で育児についての科目がないのか、長年疑問に思っていました。特に現代、親となる人にとって「子育てはできて当たり前」という風潮はしんどいのではないかと思うのです。
そこで去年、近くの小学校に子ども達に話をする時間をいただき、首すわりの意味や首すわり前の縦抱きの影響、スマホ育児の危険性などのお話をさせてもらいました。こうすることで、その子達が親世代になった時に何かが変わると思っています。
こういう活動はこれからの少子化に対しても何か力になると思っているので、続けていきたいと思っています。
(MiRAKUU vol.44掲載)
常石すくすくハウス
住所
〒720-0313
広島県福山市沼隈町常石996-7
アクセス
JR福山駅南口より鞆鉄バス新川線「常石港」下車 徒歩5分
開園時間
月~土 7:00~19:00
保育標準時間 7:00~18:0/保育短時間 8:00~16:30
延長保育 16:30~19:00
保育標準時間 18:00~19:00/保育短時間 16:30~19:00
連絡先
TEL:084-987-0953 FAX:084-987-1623