第12回 いざ! 保育士の働き方改革 成功のカギと失敗の原因

今回は、実際に働き方改革を進めている例についてお話をしたいと思います。
昨年よりこちらのMiRAKUUにて働き方改革についてお伝えしたり、講演を数多く行わせていただき、多くの経営者の方が働き方改革に乗り出してくれました。
今回は実際に働き方改革を行なった法人さんがどんなことからスタートしていったのか、どんなことでつまづいたのか、具体的にお伝えしていきたいと思います。
働き方改革の成功スタートポイント
- ICTの活用
保育業務にICT(情報通信技術)を導入することをスタートにする法人さんが増えています。私自身も、まず初めにICTの活用による生産性の向上が重要であると考えます。
例えば、連絡帳や年カリ、月案、週案、個別記録等をデジタル化することで、書類作業の負担が軽減され、その削減された時間をノンコンタクトタイムや休憩の時間に充てています。 - パート職員の常勤化
お子様にある程度手がかからなくなったパートの保育士の方々に常勤化を提案。それにより、常勤保育士の数が増え、ノンコンタクトタイムの創出や休憩時間を生み出すことを可能としました。
- 職場環境の改善
職場の物理的環境を改善する取り組みを行なった園さんも増えました。子どもと離れた場所に休憩室を作ったり、リフレッシュスペースを設けることで、保育士がリラックスできる環境を生み出し、仕事の効率も向上させています。
- 話し合いの時間や研修時間を作る
上記1~2によりできた時間で、語り合いの時閤や研修の時間を作り出すことがポイントです。成長を実感できる環境を整えていくことで、働きやすさだけではない働き甲斐のある組織に生まれ変わります。
ここからは、働き方改革に成功した具体的な事例をご紹介します。
A保育園の場合
背景
この保育園では、長時間労働が常態化しており、保育士の離職率が高い問題を抱えていました。
取り組み
- シフト・体制表の見直し
職員の意見を取り入れながら、シフト制を見直し、ノンコンタクトタイムやミーティングの時間を考慮してシフト・体制表を作りました。
- 業務のテジタル化
書類業務のデジタル化を進め、各クラスにタブレット端末を導入し生産性の向上を図りました。
- 定期的なノンコンタクトタイムやミーティング
担任にノンコンタクトタイムを作り、職員全員が参加する定期的なミーティングを設け、心理的安全性の高い組織づくりを心掛けました。
結果
- シフト・体制表を見直し、働き方にゆとりができたことで、職員のストレスが軽減され、離職率が30%減少しました。
- 職員同士の関係性が改善されたことで、保育士達の満足度が向上し、子ども達との関わりもより深まりました。

では、逆に働き方改革に失敗してしまう事例について要素を挙げてみましょう。
働き方改革のつまづきポイント
- 伝統的な働き方への依存
ある保育園では長時間労働が勤勉さの象徴であるような風潮があり、残業ゼロ・持ち帰り仕事なしを目指すも、職員の中では「昔からのやり方を変えたくない」と感じる人が多く、結局改革が進まなかった、というケースがありました。
伝統的な職場文化や慣習が根強い場合、新しい働き方に対する抵抗感によって改革が進みにくくなります。 - 新しい試みへの不安
改革の一環として新しい業務プロセスやテジタルツールの導入を試みたものの、職員の中には「使いこなせるか不安」と感じる人が多く、忌避感から導入に失敗した事例もあります。
- リーダーシップの不足
改革を推進するリーダーが不在で、現場の保育士達が新しい取り組みに対する明確なビジョンを持てなかった場合、改革が形だけになり、結局元の職場文化に戻ってしまったケースもありました。
- コミュニケーション不足
実際の現場での時間の使い方などについて職員同士の共有が足りずに混乱を招いてしまった例もあります。
職員の意見交換の場が不足すると、「押し付けられた変化」と感じられ、取り組みに参加しづらくなってしまいます。また、変化に対するサポートや支援が不足していると、職員が改革に戸惑い、ストレスを感じやすくなります。 - 情報不足
働き方改革に向けた具体的なノウハウが不足していることで進め方が迷走してしまうケースや、働き方改革に関するルールやツールが現場に伝わらない、または一貫性のない形で共有されることで歪みが生じてしまうケースもあります。
改革の情報を全員にとって分かりやすい形で伝達し、現場の職員に浸透させることが必要です。
働き方改革を進めるにあたっては、組織全体での意識改革や環境整備が重要です。また、改革の目的やメリットを明確にし、全員が納得できる形で進めることが成功のカギとなるでしょう。
それでは働き方改革の失敗について、具体的な例を見てみましょう。
B保育園の場合
背景
この保育園では、職員の業務負担の大きさに加え長時間労働が問題視されており、改革の必要性が叫ばれていました。しかし、職員の離職率が高いため人手不足が加速し、一人ひとりの負担が軽減される気配がありませんでした。
取り組み
- 新しい業務プロセスの導入
突然、新しいプロセスやその管理のためのITツールを導入。しかし十分な研修が行われなかったため、職員は使いこなせませんでした。
- 上層部の一方的な決定
改革の方針が上層部から一方的に提示され、現場の意見やフィードバックがほとんど反映されませんでした。
結果
- 職員は新しいシステムに不満を持ち、業務効率が逆に悪化しました。システム導入による書類作業が増え、従来よりもさらに多くの時間がかかるようになったため、ストレスが増加しました。
- 現場の士気が低下し、改革に対する信頼を失った結果、離職率はさらに上昇しました。
保育業務の効率化を目的にITツールやソフトウェアを導入する取り組みも増えていますが、現場での活用方法が定着せず、かえって混乱を招くケースもあります。職員がシステムに慣れる時間がなく、紙での記録作業も残ってしまい、かえって二重の業務負担が増えるという状況が発生することもあります。
現場に対する理解が不足したまま経営陣による改革が進められた結果、保育士のニーズや実態にそぐわない施策が実施され、成果が上がらないケースも見られます。
どちらにしても、改革内容と現場の実情のズレが、失敗の大きな原因といえるでしょう。
今回は盛りだくさんの内容でお伝えしましたが、いかがでしたか?
成功例・失敗例ともに、どちらにも転ぶ可能性があります。働き方改革には、強い意志と現場とのコミュニケーションが不可欠です。
一旦悪くなった組織を簡単に好転させることは難しいと思います。ただ、良くしていくためにどうしたらよいか? を常に現場と考え歩んでいくことが大事だと感じています。
(MiRAKUU vol.49掲載)
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- 野上 美希(のがみ みき)
社会福祉法人風の森 統括
学校法人野上学園 主事
株式会社野上アカデミー 代表取締役
一般社団法人キッズコンサルタント協会 代表理事大手シンクタンクにて、コンサルティング、採用、営業を経験した後、人材紹介会社にて事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメントする傍ら、女性のための人材紹介サービスの代表も務める。自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わる。
成長著しい時期である0歳~9歳(シングルエイジ期)においての一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、6つの認可保育園を開設。
また、キャリアカウンセラー資格を活かし、保育士のための仕事紹介サービス『保育ウィルキャリア』も主宰し、自園以外の保育士のキャリアに対しても寄り添う。幼稚園の採用のみならず、認可保育園を毎年1園ずつ増やす中で、独自の採用手法により、国基準の2倍の保育士確保を実現。現在、業界に先駆けて保育者の働き方改革を実践している。