第14回 MiRAKUU Special Talk Session 【超人気保育園】 園長先生の頭のなか〈後編〉

前回に引き続き、風の森で保育現場をお任せしている園長に、園の運営や保育士とのコミュニケーションについて聞いていきたいと思います。
Picoナーサリ和田堀公園は、保護者の方からの支持はもちろん、「この園で働きたい!」と希望する保育士の先生もとても多いです。
今回は、読者の方からいただいたお悩み・ご質問も織り交ぜながら、成功するヒントを探っていきましょう。
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保育士2倍配置の社会福祉法人風の森が運営。平成30年4月開園、0歳児~5歳児合わせて園児定員120名の大規模保育園。緑が茂る広大な都立公園、和田堀公園の敷地内に国家戦略特区として特別に設立され、保育環境の良さから大人気園となっている。
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【現場運営責任者】
Picoナーサリ和田堀公園園長
職員が多いことで生じる確認不足・周知不足を埋めるための工夫
野上:職員の多さでムラや漏れが生じないか? という質問はよく頂きますね。
優里:私自身は、保育について元々細かいものはないと思っています。ですから、初めから周知する用件は極力減らします。「それがないとできない」ものをできるだけ作らない。
と、そうは言っても日々色いろあるので、毎日昼礼時間を設定し、各クラスの特記事項や申し送り事項を伝え合うことを運営としては行なっています。緊急性のある事項や、1人も漏らさず絶対に確認してほしい重要な用件のみ、SNSを利用して、必ず一人ひとりがチェックした後確認済の印を付けるように徹底しています。これは伝え聞きにしないことが大切です。
野上:「伝え方」というところもありますよね。
優里:必要なことは端的にしっかりと伝える、ということが肝要だと思います。実際、職員の先生達もまさにそのことを学んでいるところですね。
野上:何が大事で何が大事でないか見極める力も園長先生のスキルですね。
色いろな価値観を持つ職員とどのように向き合うか
野上:保育は、子どもの土台をつくる根本の部分なので、子ども達がこれから多様性社会の中で生きていくことを踏まえて、その重要性を伝える大人達も、多様性や、様ざまな価値観を受け入れていく必要がありますよね。
優里:私はとにかく職員一人ひとりの性格や考え方、思考、皆が違うということを理解するように努め、たくさん話すことを心掛けています。話をするときは相手を「受け止める」ことを常に意識して、否定をしないようにしています。
野上:保育観についても、保育士一人ひとりに思いがありますよね。
優里:保育への思いは個々にあって当然、物事の価値観は1人ずつ違って当然です。だから先生達同士で、議論や討論をしても構わないと考えています。
ただ、自分と違う意見や価値観だからといって、相手の人格を否定したり陰で悪口を言うのは絶対に許されない行為です。抑止力のため、これは要所要所で言い続けています。保護者にとっても、先生達にとっても、あたたかい場所であってほしいので。
それから園長としての思い、園として大切にしたいことは年度初めや中間期などの節目に全体に伝えるようにしています。
野上:価値観が大きく違う人の場合はどうします?
優里:その方対自分1人だったらあまり困らないのですが、価値観が大きく異なる人が他の先生達の中に入ってどうなるかですよね。保育はチームプレーですから、ある一定方向だけに引っ張られてチーム全体のベクトルがずれてしまうのは困ります。
そういった場合は、何人かの先生と一緒に、どういう園を目指すか、どういう保育をしていきたいか、ディスカッションしてもらいます。
野上:チームの輪の中からあるべきスタンスを拾ってもらうということですね。
優里:何か決め事があるときに、価値観の相違が生じてしまう場合には、園長の思い・法人の思いとして私からお話することもありますが……お互いを認め合いながら先生達らしく保育してくれるのがいちばん望ましいです。
野上:やっぱり一人ひとりとしっかり向き合っていくことが大事ですね!
人気園の『保護者支援』とは
野上:多様性という面では、それぞれのご家庭の子育ての状況も多様化していて、保護者の価値観も様ざまですよね。
優里:私は保育に関して、子どもに関わる大人も大事にするということが絶対だと思っています。子ども達がいるのは、ご両親がいるから。保護者のことを尊敬し、大切に思うことも、園長としてとても大事にしていることです。ですから、保護者の方々のそれぞれの価値観とも誠実に向き合っていくことを常に心掛けています。
野上:子どもを中心として、三者【子ども・保護者・先生】を大事にするということですね。
和田堀園では、保護者支援にも力を入れていますが、保護者支援でのポイントは? 保護者サーピスを増やせば保護者に人気になると考える園もありますが……。
優里:そのサービス自体が保護者にとって心地良ければ、それはそれでいいですよね。ただ、保護者支援とは、何でも親に代わってやってあげることではないと私は思っています。子育てにおいて、こちらが手を差し伸べたり、代わりにやればラクでもあえてそうせずに、保護者の頑張りどころを伝えるような、「親の力を育てる」というところも支援だと私は考えています。
野上:そこはベースの信頼関係があってこそですね。
優里:サービスというよりも、保育とご家庭での子育てを繋ぐ「ひと手間」が大事かなと思います。子どものより良い成長に何が必要か、保護者と一緒に考え、必要箇所をバックアップするというのが子育て支援の軸だと思っています。
全国の悩める園長先生達へ
野上:最後に、保育園運営に悩む園長先生達に、優里先生からメッセージを。
優里:私がメッセージなどおこがましいのですが……。
園長業務は常に、選択、判断を求められる業務の連続です。一瞬でジャッジしなければいけないこともあります。そして子ども、保護者、職員、地域、全てのことに責任があります。孤独を感じることも多いです。が、立場を潔く割り切って、覚悟をもって園長業を楽しみましょう!
野上:園長だからこそ楽しめる部分もありますか?
優里:それはもう、全クラスの成長を見て取れるのが醍醐味ですね。子ども達の成長、先生達の成長、先生達と一緒にやってこられる楽しさは、園長先生しか感じられない喜びだと思います。保護者の方と心が通うのも楽しいですよ。本当に色んな人と関われるのが園長先生です。
野上:大事にしている三者【子ども・保護者・先生】が楽しさというところに繋がっていますね。
優里:そして、1つの園を運営できるという楽しさ、自分次第で様ざまなチャレンジができるというワクワクがあります!
園長は大変な役割ですが、常に“大事”(子どもも、保護者も、職員も)という思いで、コミュニケーションを取れば、周りに助けてくれる仲間はたくさんいます。仲間を信じて、保育士の可能性を信じて、その上で自分自身は常に謙虚という気持ちをもって進んでいくと良い雰囲気で仕事ができると思います。もしかしたら美希さんからはそう思われていないかもしれないですが、謙虚なんですよ!(笑)
野上:保育士の先生達は部下でなく仲間という意識ですね。
優里:園長だから偉いとか、お山の大将ではないですから。そして園長という仕事にはパワーが必要です。皆さんそれだけのパワーをもって尽力されていると思います。座っていてできる仕事ではありません。そして園長先生一人ひとり悩みも違うでしょう。
野上:苦しいと思う園長先生も多いはずです。
優里:しかし「これじゃいけない」と感じることも前に進む原動力になります。そして、課題の発信と是正を繰り返す。例えば法人内の園長同士でも、綺麗なことは伝え合っていても、自園で起きた失敗は言えないというのは芳しくないですね。やはり、皆で知恵を出し合って解決していく方が良いと思います。
野上:そこは愚痴で終わらせないような話し合いにしないといけませんね。
(MiRAKUU vol.51掲載)
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- 社会福祉法人風の森 統括
学校法人野上学園 主事
株式会社野上アカデミー 代表取締役
一般社団法人キッズコンサルタント協会 代表理事
大手シンクタンクにて、コンサルティング、採用、営業を経験した後、人材紹介会社にて事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメントする傍ら、女性のための人材紹介サービスの代表も務める。自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わる。
成長著しい時期である0歳~9歳(シングルエイジ期)においての一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、6つの認可保育園を開設。
また、キャリアカウンセラー資格を活かし、保育士のための仕事紹介サービス『保育ウィルキャリア』も主宰し、自園以外の保育士のキャリアに対しても寄り添う。幼稚園の採用のみならず、認可保育園を毎年1園ずつ増やす中で、独自の採用手法により、国基準の2倍の保育士確保を実現。現在、業界に先駆けて保育者の働き方改革を実践している。