第15回 主任保育士と現場運営を考える①

保育園還営について、「人を増やしてもうまくいかない」という声が届いています。実際、保育士人材の確保が難しいなか、苦労して獲得した1人を現場に投入した結果、うやむやに現場に溶けてしまい状況が全く改善しない、という事例は非常に多いです。
頑張って採用できた貴重な人材をどうしたらよいか?
今回からは現場で直面する具体的な問題や工夫について、風の森の主任保育士Y先生と検討してみたいと思います!
『主任』は、園長よりも一段現場に近く実務的な部分を担い、ここで全体を見通した人の采配、体制を立てられるかが鍵を握っています。
キーワードは「現場の納得感」「スタッフの成長促進」です。
「定数プラス1」の課題と人材活用のアプローチ
野上:多くの園で対人数(配置基準定数)通りの人員配置、ギリギリの体制で運営されているというのが現状ですが、例えば定数プラス1で人員を増やしても、現場任せにすると効果が薄れ、負担軽減に繋がらないことが多いようです。このプラス1の人材、有効に活用しなければ。どうしています?
Y:まず追加人員の活用方法として、「保育に直接入る」「保育外で活用する」の2つの観点があります。全体を俯瞰したうえで、状況を見て必要な箇所に活用しなければなりません。どちらにしても“保育を安定させる”ことが基本なので、一旦、各クラスが抱えている課題は何か、どこに大人が必要かを洗い出すことからです。何ができて何ができないか丁寧にヒアリングし、課題が明確になったところで、優先順位をつけていきます。
野上:優先順位は、どういう風に決めていますか?
Y:やはり危険度が一番ですね。クラスの状況(新入園児、特性のあるお子さん、噛みつきなど)をもとに、どこをカバーするか判断します。あとは、効率化という面で、人がいないと落ち着くまで長く時間を要してしまう部分に人を足して早く安定させることも多いですが、「ずっとプラス1ではいられない」ということは伝えるようにしています。
野上:そもそも追加人員を臨時的、多面的に活用していくということですね。
Y:追加人員は、目標を達成するために使うと考えていて、プラス1の人材に関して言えば、目標は対人数で保育をすることになると思います。
野上:追加分の人材を使う難しさは?
Y:保育力とのバランスもありますし、時間をずらして余裕人員分を使っていくのが難しいところですね……。あとはやはり、追加人員をどのクラスに配置するかで揉め事が起こりやすいですよね。偏りが発生することで、「あのクラスだけずるい」と不満を生んでしまう。人員の偏りに対してきちんとフォローや説明ができていないと、不公平感が出て人間関係を悪化させてしまいます。
公平性の重要性

野上:課題解決のための人員配置と、それに付随する新たな問題へのフォローという両輪でやっていく必要があるということですね。
Y:人間関係のトラブルは離職の要因になり得るので、人を入れたことで人がいなくなったら本末転倒ですよね。ですから現場の納得感やコミュニケーションは大事にしています。
「今このクラスはこういう理由で多めに人を配置している」といった、配置の理由や意図は現場全体に(他のクラスにも)説明し、不安や不満が生まれないように声かけを意識しています。それから、「助けてもらえる番が回ってくる」ということを必ず伝え、孤立感を生まないように気を付けています。
野上:現場の公平性、納得感というのは大事なポイントですね。
Y:いわゆる“頑張り損”が起きないようにしないといけません。例えば子どもの安全一つにしても、意識や優先度合いが保育士によってそれぞれ違い、保育計画の立て方であったり、業務の進め方に個人差があるのは当たり前なのですが、その中で、自分で時間を作り出せた人は、その成果を自分自身の利益に繋げられるようにしなければなりません。
野上:仕事が早い人が余った時間を自分のために使うのは問題ないですからね。
Y:私はとにかく先生達の働く環境が一番大事なことと考えているので、どの先生も自分の仕事を納得して進められるよう、全体を見ること、フォローすること、コミュニケーションを取ることが務めだと思っています。
野上:保育士がやりがいを感じ、楽しく働ける環境を作ることが何より一番、それが最終的に子どもに還元されていきますからね。
人が多いと保育力が落ちる?
野上:働き方改革の講演をしていてよく受けるのが、「人を増やすと保育力が下がるのでは?」という質問です。追加人員を入れると、その環境でなければ保育できなくなって保育力が低下する、だから人を増やしません、という話も耳にします。
Y:その追加人員を保育に直接入れるとして話をすると、今日は人を入れるけれど、明日は入れなくても大丈夫なように保育を組み立てる、という使い方にしなくてはいけません。塩梅が難しいですが、「常にプラス1の人員がいないと見られません」だと保育士も成長できませんから。
野上:人が増えた状態が当たり前な人が出来上がって終わり、では意味ないですからね。我々も常に定数の2倍保育に張り付く必要はないと思っています。
Y:確かに、例えば子ども3人を保育士1人で見ても、3人で見たとしても、その時間“保育”をしていることになってしまいます。その中で保育士自身が、他の仕事ができないか? さらに保育を良くするには? 次の段階にいくには? 「やりたいこと」や「課題」を設定する必要があります。
野上:生み出された余裕をどのように活用するかが重要ですね!
Y:余力ができた中で、もちろん可愛い子どもの姿にホッとする時間があっても良いですし、張りつめてやらなくてもいいですが、そこで、今日はなぜ3人で見たいか、意味のある使い方を考えることが成長に繋がります。人が足された状況下で組み立てられた時間配分しかできない、あるいはマニュアル化されたことしかできないとなると、そこは改善が必要です。
野上:短期的には人が余剰に見えても、長期的な視点で子どもの成長、保育士の成長を促せるようにするというところがポイントですね。将来の投資として。
次回も引き続き、Y先生と一緒に保育現場運営における課題や、業務効率化について考えていきたいと思います。それではまた!
(MiRAKUU vol.52掲載)
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- 社会福祉法人風の森 統括
学校法人野上学園 主事
株式会社野上アカデミー 代表取締役
一般社団法人キッズコンサルタント協会 代表理事
大手シンクタンクにて、コンサルティング、採用、営業を経験した後、人材紹介会社にて事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメントする傍ら、女性のための人材紹介サービスの代表も務める。自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わる。
成長著しい時期である0歳~9歳(シングルエイジ期)においての一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、6つの認可保育園を開設。
また、キャリアカウンセラー資格を活かし、保育士のための仕事紹介サービス『保育ウィルキャリア』も主宰し、自園以外の保育士のキャリアに対しても寄り添う。幼稚園の採用のみならず、認可保育園を毎年1園ずつ増やす中で、独自の採用手法により、国基準の2倍の保育士確保を実現。現在、業界に先駆けて保育者の働き方改革を実践している。