2015.01.15
保育士のメンタルケア講座

vol.6 食事面から行うメンタルケア

保育士のメンタルケア講座vol.6 食事面から行うメンタルケア──精神科医・執筆家 奥田弘美先生

食事をおろそかにするとメンタルに影響がでる

奥田弘美先生

編集長: 皆様こんにちは! 前回に引き続き、奥田先生に保育士のメンタルケアについてお話をうかがおうと思います。
今回は食事面から行うメンタルケアについてお話をお聞きしたいと思います。
食事とメンタルケアはあまり繋がりがないような気がしますが、メンタルケアには食事は関係あるのでしょうか?

奥田: はい、あります。心とは、簡単に言うと視覚・味覚・聴覚・嗅覚・触覚の五感で感じた刺激が脳に伝わることで成り立って います。
例えば、甘いケーキの匂いを嗅ぎ、美味しそうな色合いを見るとワクワクすると思います。
そして期待通りの美味しさなら「美味しい!嬉しい!」と思い、逆にまずいと怒りや落胆、恐怖を感じます。このように、感情は五感が経験した刺激が脳に伝わって、最終的には脳が作り出しているのです。
この五感や脳は全て細胞で形成されています。そして細胞にとって必要不可欠なのは、食事から摂取した栄養素なのです。
つまり、細胞に栄養をしっかり与えないと、刺激を伝える神経や脳細胞の働きにダメージが発生してしまい、感情や知力にも影響が出てしまうのです。

編集長: 食事をおろそかにするとメンタルに影響が出てしまうということですね。

奥田: その通りです。食生活が乱れて体の機能を正常に動かすための栄養素が不足すると、五感から伝わる刺激に対する感じ方も変わってしまいます。気力が落ちてしまい、元気な時に「楽しい」と感じていたことも楽しくなくなり、味覚が落ちて食事を美味しいと思えなくなるなど、体が弱ると脳が刺激を適切に処理することができなくなるのです。
体だけでなく心の健康も守るためにも、バランスの取れた食事はとても大切です。

編集長: 食生活が原因で心の病気にかかってしまうこともあるのですか?

奥田: 食事が直接的な原因にはなりませんが、栄養バランスが偏っていると気力の低下に繋がり、メンタルにも徐々に影響が出てくると思います。

編集長: では逆に、心を健康に保つためにはどのような食事を摂ればいいのでしょうか?

奥田: 保育士の皆さんが子ども達に指導している通り、赤の食べ物(タンパク質)、黄色の食べ物(脂質・糖質)、緑の食べ物(ビタミン・ミネラル類)をバランス良く食べることが何よりも大切です。
特に、昨今の若い女性はタンパク質が不足している傾向にあります。タンパク質の中には疲労を回復する物質や、感情や気力に関わる脳のホルモン(セロトニン・ドーパミンなど)を生成する栄養素が含まれています。
「最近体が重い。やる気が出ない」という方はタンパク質が不足している可能性があります。忙しくて昼食や夕食は菓子パンやおにぎりしか食べていないという方や、飲食店でパスタだけしか食べないという方は意識して食事をおろそかにするとメンタルに影響がでるタンパク質を摂取するようにしてください。
それに保育士さんは体が資本なので、タンパク質が多い食事を摂らなければ疲労が残ってしまいます。働き盛りの人は、最低でも1日2食は肉や魚、卵など十分な動物性タンパク質が含まれた栄養バランスの良い食事を摂取してください。

編集長: 毎食、栄養バランスの整った食事をすることが大切なのですね。
1日の食事の中で、糖質・タンパク質・ビタミン・ミネラル類はどの様なバランスで摂取すればいいのでしょうか?

栄養のバランスは保育園の給食を参考にする

奥田: だいたい同量程度を目安にすると良いと思います。メインディッシュ(タンパク質)、野菜や海藻の副菜(ビタミン・ミネラル類)、ご飯やパン(糖質)が1:1:1程度の分量で揃っていれば、ほぼOKだと考えてください。
私は医師として保育士さんを何人か診たことがありますが、朝はパンだけ食べて、昼間は保育園で給食を食べ、夜はコンビニ弁当やパスタだけという方も少なくありませんでした。
栄養バランスが崩れた食生活を送っている方は、保育園の給食を再現するつもりで食事メニューを考えて、バランスよく栄養を摂取してください。

編集長: なるほど、栄養士さんが考えた、栄養バランスの良い食事を手本にすれば良いのですね!
では、園長先生が保育士さんに食事面からメンタルケアの指導をする時は、栄養バランスについてアドバイスすればいいのでしょうか?

奥田: そうですね、保育士さん自身が一日分の栄養を毎日しっかり摂れているかどうかを把握できるようになると良いと思うので、子どもに食事のバランスについて教える時に、自分自身の食事についても振り返るようにアドバイスしてあげてください。
また、忙しい時期は特にコンビニや飲食店を利用した食事が多くなってしまうと思うので、食事に生野菜や果物などの一品を追加するようにアドバイスしてあげてください。サラダなどが無い場合は野菜ジュースを添えるだけでも違います。
また、加熱調理された物だけではなく生野菜や果物なども組み合わせると熱に弱いビタミン類も摂取できます。
菓子パンやパスタなど、タンパク質が足りない時はメニューに卵やチーズを追加することも大切です。
ストレスを抱えているように見える保育士さんには、意識して色とりどりの野菜や豚肉・牛肉・鶏肉・青魚などを食べて、疲労回復効果の高いたんぱく質とビタミン類をたっぷり摂取するようにアドバイスしてあげてください。
カルシウムやマグネシウムといったミネラル類も感情と深い関係があるので、乳製品や海藻類なども組み合わせるとさらに効果的です。
また、貧血気味の保育士さんは、特に赤身の肉やレバー、カツオやマグロなどの血合いの多い魚を食べるように勧めてあげてください。貧血の治療をきちんと受けるだけで疲れにくく、気持ちが落ち込みにくくなることもあります。
体が疲れにくくなるということは、すなわち心も疲れにくくなるということなのです。

編集長: 落ち込んでいる保育士さんがいたら、食生活面からサポートすることも大切なのですね。

ストレスに効く栄養

心が疲れていると自覚したら体を休め、食生活を整える

奥田: 園長先生は今までのメンタルケア講座でお話ししたアドバイスと共に、食事に関してのアドバイスを行うと良いと思います。
保育士さん自身も、心が疲れていると自覚したらしっかりと体を休め、食生活を整えるように心がけてください。メンタルケアにおいて一番大切なのは食事と睡眠なので、食生活が乱れたままだといくら休息を取ってもなかなか回復しません。

編集長: なるほど、どちらが欠けても効率良く回復することはできないのですね。
今回は「ストレスに強くなるためのメンタルケア」として、食事について教えていただきました。次回は睡眠についてお話をお聞きしたいと思います。
奥田先生、今回もありがとうございました。

※注釈:上記の理論は奥田弘美医師のオリジナルです。無断での転載・引用は著作権違反となりますのでお控えください。

奥田 弘美
  • 経歴

    精神科医・産業医として老若男女のストレスケアやメンタルケアに関わりながら、本の執筆や講演にて心身の元気アップ法を精力的に伝えている。雑誌、新聞などの監修・連載経験も多数。
    近著は「部下をうつにしない上司の教科書」(東京堂出版)、「ココロの毒がスーッと消える本」(講談社)、「自分の体をお世話しよう ~子供と育てるセルフケアの心~」(ぎょうせい)。
    私生活では13歳と9歳の男児のママであり、保育園に子育てを支えてもらったことに深く感謝している。