第1回 助成金について
皆さま、はじめまして! 社会保険労務士事務所リーフレイバーコンサルティング 代表の川﨑潤一と申します。
社会保険労務士とはどのような仕事をしているかご存じでしょうか。
扱っている主な法律としては、労働基準法、労働者災害補償保険法、雇用保険法、パートタイム労働法、健康保険法、厚生年金保険法といった、働く上で必ず関係してくる法律です。
簡単に言いますと、働く人に関する法律の専門家です。
この連載では、上記に法律に関する最新情報や、企業経営を行う上での有益な情報(例えば助成金、社会保険調査対策、従業員満足度向上、労働トラブル対策と対応、いかにして自社が求めている人材を採用するか等)をお話ししていきます。
さて、今回は助成金についてお話しをしたいと思います。
助成金とは
助成金という制度は、簡単に言いますと「条件を満たして申請し、審査が通れば返済不要のお金が貰える」というものです。
助成金(補助金)は、厚生労働省、中小企業庁、自治体などが運営している制度となります。
そのため、種類も非常に多く、それぞれで貰える金額、支給条件、審査の難易度が異なります。
また、年度ごとに予算をつけておりますので、毎年4月は新しい年度の助成金制度がスタートします。
助成金ごとに予算額が決まっているため、人気のある助成金は年度途中で予算額に到達する見込みとなった段階で、打ち切りとなる場合もあります。
では次に、助成金制度のメリットとデメリットをみていきましょう。
助成金のメリット
1. 返済不要であること
貰った助成金は融資(借りたお金)ではないため、返済する必要がありません。
2. 使用目的は自由(用途が限られているものもあります)
使用用途が限られている助成金もありますが、条件を満たして貰った助成金をどのように利用しても自由です。
設備投資、社員教育、運転資金などに利用できます。
3. 売上ではなく雑収入、雑所得となる
経理上では雑収入、雑所得となります。
助成金金額 ÷ 営業利益率 = 売上 と同じ効果があります。
手続きをして支給されれば、売上の効果に換算した際に、非常に大きなメリットとなります。
4. 労務環境が整備される
申請をする際に様々な書類を提出することとなりますが、多くの場合に賃金台帳や出勤簿(タイムカード)、雇用契約書の写しを提出することとなります。
これまで作成していないのであれば、作成する必要があります。
また、法令に則った内容でなければなりませんので、必然的に法令遵守の環境整備ができることとなります。
5. 何度でも貰えます
助成金の種類によっては、1企業1回限りというものもありますが、多くの場合は条件を満たしていれば何度でも貰うことができます。
助成金のデメリット
1. 必ず貰えるわけではない
申請が通らないと支給されません。
そのため、手続き書類の作成・準備に時間と手間をかけ、申請手続きを行い、審査の段階での審査機関からの問い合わせ対応、を行ったとしても申請が通らなければ支給されません。
そのため、申請にかかった時間や手間が全て無駄になる可能性があります。
申請書類の準備や手続きに非常に時間と手間がかかりますので、自社で手続きを行う際には、その点を充分考慮した上で自社にて手続きを行うのか否かを検討する必要があります。
自社で手続きを行うことで、非常に時間と手間がかかります。
本来であれば、本業に費やすべき時間やお金を削って、助成金の書類準備や手続きに時間やお金を費やしていることとなります。
下記の本業とは別にかかった金額分だけ、本業からするとマイナスとなります。
支給されない、または途中で手続きを諦めると、それまでにかかった時間やお金(本業とは別にかかった金額)が無駄となります。
支給されたとしても、書類の準備と手続きに既にお金(本業とは別にかかった金額)がかかっているため、実質的に支給額が全額プラスとなっているわけではありません。
以上のことを踏まえて、自社で手続きを行うのか否かの検討が必要です。
2. 制度の改正が多い
制度の改正(新しくできる、廃止される、金額や支給条件等が変わる)が頻繁にあるため、常に最新情報を入手することが重要となります。
特に条件が変わることで、これまでは支給対象となっていたが、改正後は支給対象外となる場合があるので、注意が必要です。
過去に遡ることはできませんので、もう少し早く知っていれば貰えたのに、というケースも多いです。
3. 申請期限を過ぎると受け付けてもらえない
助成金ごとに申請期限が決まっています。
その期限内に手続きを行わないと(極端な話として期限を1日でも過ぎると)、申請を受け付けてもらえません。
助成金の種類や、同一の種類であっても人ごとに申請期限が異なる場合がありますので、期限内に手続きを完了できるように、進捗管理(スケジュール管理)が必要です。
申請にはどのような種類の書類が必要で、どのようなポイントを踏まえて準備をする必要があり、いつまでのその種類を用意すればよいのか。
申請期限から逆算し、スケジュール管理が必要です。
4. 種類、支給条件が多く、自社が貰える可能性のある助成金がどれかがわからない
助成金の種類は非常に多く、助成金ごとに支給条件が異なっています。
そのため、自社の現状とこれからの展開から、どの助成金が貰える可能性があるのかがわからない、というご相談が多いです。
そもそもどのような助成金が貰える可能性があるのかがわからないと、申請をするか否かといった経営判断を下すことができません。
パンフレット等が発行されているため、現在どのような助成金が制度としてあるのかはわかりますが、支給条件が多いため、読んで理解するのが困難です。
「自分で手続きしようと思って調べましたが、パンフレットを読んでもよくわからないので、諦めていました」とおっしゃって、弊事務所へご相談いただくことが多いです。
助成金手続きの失敗事例
1. 手続きの流れを飛ばして進めた
手続の流れが決まっているため、一つでも飛ばして進めてしまったことで、支給できなかった。
2. 書類が揃えられなかった
申請期限までに必要な書類が揃えられなかったことで、申請できなかった。
申請書類は必要な書類を揃えればよいだけではなく、審査が通るようにポイントを踏まえて作成する必要があります。
一度提出してしまうと、再提出することは難しいです。
そのため、申請期限に間に合うように書類を揃えるだけではなく、ポイントを踏まえて書類の準備をすることが重要です。
3. 会社都合退職者が出てしまった
解雇や退職勧奨といった、会社都合での退職者が出てしまうと、特定の期間内は申請できなくなってしまいます。
4. 残業代を支給していない
適正な労務管理が必要となりますので、残業代が不支給となっている場合には、支給されません。
適正な時間管理、業務の見直し、固定残業代の導入等により、助成金申請の前に労務環境の整備が必要となります。
5. 制度改正により支給対象外となってしまった
制度が変わったことにより、それまでであれば支給対象となっていましたが、制度改正後は支給対象外となってしまうことがあります。
常に最新情報を入手し、改正動向を掴んでいることが重要となります。
6. 法人で社会保険未加入となっている
法人で社会保険の加入条件を満たしている従業員については、加入が必須となります。
助成金を抜きにしても、厚生労働省の方針、マイナンバー制度の導入により、今後は適正な加入手続きが求められてきます。
社会保険調査などに関しましては、改めて当連載の中でのテーマとしてお話ししたいと思います。
今回は助成金制度の概略を説明いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
まずは自社が、どのような助成金を貰える可能性があるのかを知ることです。
その上で、必要書類やその準備にかかる時間や手間から、申請を行うか否かを検討します。
助成金を貰いたいけれども、難しそうだし自社で時間や手間をかけられない、ということであれば社会保険労務士へご依頼いただくことをご検討いただければ、と思います。
社会保険労務士は、事業主に代わって手続き代行する権限があります。
社会保険労務士の資格を持っていない者(資格を持っていても、社会保険労務士会へ開業登録していない者を含む)が、事業主に代わって手続き代行をすることは社会保険労務士法違反となります。
次回は、2015年度の助成金について、お話ししたいと思います。
- 川﨑 潤一
社会保険労務士事務所リーフレイバーコンサルティング 代表
株式会社ヒューマンブレークスルー認定ESコンサルタント、全国社会保険調査対策協議会会員財閥系子会社、医療事務・介護事業会社の人事として、採用・給与計算・労働保険手続きを担当し、2011年4月1日に社会保険労務士事務所リーフレイバーコンサルティングを開業。
ハローワークにて「助成金支給申請アドバイザー」として、窓口で支給申請の受理手続き(約700件)、相談・アドバイス、不正受給防止のため事業所への実地調査を行った経験がある。
その勤務経験から、企業に対して現状と今後の展望をヒアリングした上で、最適な助成金の提案・手続きを行っている。社会保険労務士として、労働社会保険手続き、助成金手続き、就業規則の作成・改定、給与計算、セミナー講師を行う。
その一方で、人事マンの経験を活かし人事コンサルタントとして、採用コンサルティング、従業員満足度(ES)調査・向上コンサルティング、マネジメント能力向上研修(マネージャーMQ)、社会保険調査対策、人事制度構築といった人事コンサルティングにも力を入れている。ホームページ:http://www.leaf-sr.jp/