絵本を通して子ども達に伝えたい想い:きむらゆういち先生

絵本は自分の伝えたいことがストレートに伝えられる

編集長:きむら先生が絵本を書こうと考えたきっかけを教えてください。
きむら:僕の場合、最初から絵本作家を目指していたわけではありませんでした。
高校生の頃に、絵やお話を考えることを楽しいと思うようになり、それを自分の職業にできないかと考え続け、大人になってからはサラリーマンとして働きながら「子どもの教室」を経営していました。
編集長:「子どもの教室」ではどの様な活動をしていましたか。
きむら:主に手作り玩具や造形を教えていました。
他にも凧揚げや料理、映画の製作や演劇など、思いつく限りのありとあらゆるものを子ども達と一緒に体験してきました。
その活動の中で、自分の好きな「子ども、絵、文章」が合わさり絵本という形になりました。
「子どもの教室」を経営する中で子どものことには詳しくなりましたし、絵も文章も書けたので、絵本を作るのがどんどん楽しくなりました。
それに、絵本は他の作品と違って構想から制作までの過程に他のスタッフが介在しないことが多いので、自分の伝えたいことをストレートに伝えられるというのも魅力の一つでした。
編集長:『あかちゃんのあそびえほん』シリーズの、紙を上下にめくる仕掛けはどのように思いついたのですか。
きむら: 家にお客さまが見えた時、妻が幼い娘に「ほら、ご挨拶は?」と頭に手を当ててお辞儀させるのを見て、ページをめくる動きと人間の体の動きをシンクロさせて紙を上下に動かす仕組みを思いつきました。
人生は明るくて楽しいものだと子ども達に伝えたい

編集長:「あらしのよるに」などの絵本を通して、読者に何を伝えたいですか。
きむら:伝えたいことは大まかに分けて三つあります。
一つめは、プリズムを当てると物の角度が違って見えるように、日常生活にプリズムを当てると今まで見えなかったものが見え、物事の本質が分かるようになるおもしろさ。
二つめは「些細なことで違う局面が見えるようになる人生っておもしろい」という気持ち。
三つめは「この世に生まれて良かったね」という、生きていることを肯定する想いです。
このような想いを込めて絵本を描いています。
基本的に大人も、自分のためになる本でなければお金を出して買おうとは思いませんよね。
絵本を手に取る人の心の奥には「人生はおもしろくて、まだまだ楽しいことがたくさんあるんだ」「人生色いろなことがあるけれど、物事は個人の受け取り方で良くも悪くもなるんだから、どんどん自分で楽しくしていけるんだ」という「これからの人生は明るくて楽しいものなのだ」と子どもに伝えたい気持ちがあると思います。
ですので、基本的には子ども達に楽しんで欲しい、笑って欲しいと思いながらお話を作っています。
読み聞かせにはルールはない。自然に読むのが一番いい
編集長:絵本を子どもに読み聞かせる時、どんな読み方をすればいいですか。
きむら:何も考えずに読むのが一番良いと思います。
絵本を読んで「おもしろいな」と思ったら、ただ話を頭に思い浮かべながら読み聞かせて下さい。
そうすれば子どもの頭の中にも自然と絵本の世界が浮かんできます。
編集長:大人がイメージした話を、そのまま子どもに伝えるということですね。
きむら:はい。よく、読み聞かせは棒読みが良いという話を聞きますが、100%感情を入れずに読むというのは無理だと思います。
昔、読み聞かせのセミナーに行った時、たったひと言ふた言の台詞を読むのにも、10通り以上の読み方があるという話を聞きました。
絵本を読む人は頭の中に浮かんだイメージを伝えようと、無意識のうちに読み方を選んでいるのです。
感情を入れずに頭の中を空っぽにして読んでも、ちゃんと演出をしているのですから、無理に感情を入れて読もうと考えなくても良いと思います。
あまり感情を込めすぎると普段と違う様子に子どもが戸惑ってしまい、絵本の中に入っていけませんし、「自然に伝わる」ということを大切にして絵本を読み聞かせて欲しいと思います。
編集長:絵本は読み手の持つイメージによって変化するということですか。
きむら:はい。イメージとしてはラジオ番組を作っているようなものです。
あくまでも絵本は「脚本」で、それに演出を加えて形にするのが読み聞かせです。
効果音一つとっても読み方は千差万別ですし、人によってストーリーが形作る世界も違うのです。
編集長:子ども達が絵本を読んでいる時、同じ話を読んでいてもそれぞれ違う想像をしているのでしょうか。
きむら:そうだと思います。絵本の読み方にルールはありません。子どもの数だけ読み方があります。
それと同様に、読み聞かせもその人の持つ自然な読み方で読むのが一番です。
変に「こう読まなきゃいけない!」と考えることはありません。
おもしろい出来事があった時、他の人に話したくなるのと同じです。
「他の人にも知らせたい!」という自然な気持ちで読むことが、一番相手に伝わる読み方だと思います。 おもしろいと思えない本は読まなければいいのです(笑)
編集長:(笑)自然体が一番なのですね。
先生は講演会や授業など、幅広く活動していますよね。その時に、必ず伝えているメッセージはありますか。
きむら:絵本は大人が子どもに「ためになるから」という理由で与えるものでは無いということです。
絵本は子ども達にとって、主人公の気持ちになってワクワクすることができるツールです。
小さな子どもは他人の気持ちを考えることが難しい場合が多いので、主人公の気持ちになって楽しく絵本を読むことで、相手の気持ちを考える訓練をしているのです。
子どもにとってはキャラクターに感情移入し、様ざまな想いを疑似体験する冒険のようなものです。
子どもが読みたがる絵本を時間の続く限り読み聞かせて

編集長:絵本を選ぶ時は何をポイントにすれば良いのでしょうか。
きむら:子どもが読みたがるものを中心に、様ざまな絵本を徐々に与えていくのが一番良いと思います。
自分が子どもだったら、読みたくない本を「あなたのためだから読んで」と言われても読まないですよね。
好きなものを読ませてあげることが、絵本を通して様ざまなことを学ぶための第一歩につながります。
編集長:絵本を読み聞かせていると、子ども達に何回も「もう一回読んで」と言われるのですが、どのくらいまで読み聞かせてあげれば良いという目安はありますか。
きむら:時間の続く限り読み聞かせてあげて下さい。
何も分からない状態から言葉の意味を体験している時期なので、何回も読み聞かせをねだるのは子どもが学習しようとしている証なのです。
編集長:私も絵本の読み聞かせをしている時、読む場所を間違えてしまうと即座に子どもから「違う」と言われます(笑)
子ども達は話の結末を知っていても、実体験として自分の中に取り込むために何回もお話を聞きたがるのですね。
最後に、きむら先生にとって絵本とは何ですか。
きむら:昔、ドラえもんのアニメでジャイアンの声を当てていた声優さんとお話をする機会があったのですが、その方は絵本を「どこでもドアのようなものです。絵本の表紙を開けるだけでどのような場所にも行くことができます」と表現していました。
僕も同感です。絵本の表紙をめくれば自分の想像の中でどのような世界でも作ることができるという意味をこめて『世界』だと考えています。
編集長:本と人の数だけ世界が存在するということですね。きむらゆういち先生、本日は本当にありがとうございました。
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きむら ゆういち先生
11932年、東京都生まれ。多摩美術大学卒業。
造形教育の指導、テレビ幼児番組のアイディアブレーンなどを経て、絵本・童話作家に。
『あらしのよるに』(講談社)で講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化賞、JR賞受賞。
同舞台脚本で斎田喬戯曲賞受賞。同作品は映画化もされ、脚本を担当。
2005年12月より公開された東宝アニメーション映画「あらしのよるに」は、2007年「日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞」を受賞。
『オオカミのおうさま』(偕成社、絵・田島征三)で第15回日本絵本賞受賞。
絵本・童話創作に加え、戯曲やコミックの原作・小説など広く活躍中。
著書は600冊を超え、数々のロングセラーは国内外の子どもたちに読み継がれている。
純心女子大学客員教授。
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『あかちゃんのあそびえほんシリーズ1~13』、『オオカミのおうさま』(偕成社)
『あらしのよるに』、『風切る翼』『よーするに医学絵本』シリーズ(講談社)
『オオカミグーのはずかしいひみつ』(童心社)
『どうするどうするあなのなか』(福音館書店)
育児エッセイ『たいせつなものはみんな子どもたちが教えてくれた』(主婦の友社)など。
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