社会福祉法人栄寿福祉会──「原体験」と「型破り保育」で未来を拓く


社会福祉法人栄寿福祉会の概要について教えてください。
1980年の4月に設立しました。現在、名古屋市を中心に6つの園を運営しています。これ以外にも、姉妹法人として「学校法人正雲寺学園」があり、こちらでは認定こども園と保育園の2園を運営しています。グループ全体では、8つの園を展開している状況です。
法人全体の保育理念や特長についてお聞かせください。
私達は「原体験を大切にする」ということを掲げています。子ども達には、様々な“本物”に触れる体験をしてもらいたいと考えています。今は、絵や映像、言葉だけで物事を伝える機会が多いですが、情報だけではなく、自分の目で見て、手で触れて、体験してほしい。そういう“本物に触れる”体験を重視しています。ですので、できる限り子ども達が直接触れられる機会を作るよう心がけています。


具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
最近は特に、畑での活動に力を入れています。およそ千坪の畑を借りて「キッズ農園」と名付け、3年ほど前から職員と子ども達で管理しています。そこで色いろな作物を育てていますが、畑は遊び場としても活用しています。例えば、畑でお泊り保育をしたり、園対抗のリレー大会を開いたり。もちろん、種や苗を植えて、育てて、収穫して、それを自分達で食べるという体験も行なっています。
さらに今は、育てた野菜を販売する取り組みもしています。子ども達に“お金のやり取り”を体験してもらおうと、保護者の方に向けて年長さんが自分達で販売する機会を設けています。
実際に販売までされているんですね。お金の勉強にもなりますね。
そうですね。例えば「大根1本いくら」と設定して、子ども達が保護者と実際にお金のやり取りをします。こうした体験を通じて、社会の仕組みに触れてもらいたいと考えています。


他の園では見られない、御法人ならではの取り組みは他にもありますか。
子ども達への取り組みは、一般的な保育園でも見られるものが多いと思います。ただ、私達には一つ大きな特徴があります。それは「型破り保育」と名付けた取り組みです。6年ほど前からインターネットを通じて発信しています。よく「どこが型破りなんですか?」と聞かれますが、特別な保育内容をしているわけではありません。
「型破り保育」とは、教育現場における大人の在り方に注目した考え方です。教育業界では「子ども達のために」という理念が一般的ですが、その一方で、働く大人達の存在が無視されがちです。特に学校の先生は、朝早くから夜遅くまで長時間働くのが当たり前で、保育業界でも一昔前は1日10時間、12時間働くのが常態化していました。サービス残業や持ち帰り仕事で週末も休めない、そんな状況でした。
そこで私達は「大人にスポットを当てる」という視点に立ち、大人自身がオン・オフをしっかり切り替え、自分の時間を有意義に楽しめる環境を整えることを重視しました。心に余裕のある大人が、子ども達に本当の意味で良いものを伝えられると考えたのです。
「今、遊ぶために働け」というキャッチコピーを掲げています。これは、職員が“かっこよくて粋な大人”であるために、自分の時間も大切にしながら働く姿を目指してほしいという思いを込めています。
「型破り保育」を始める前と今とでは、職員にどのような変化が見られましたか。
大きな変化がありました。まず、保育士の求人状況が大きく変わりました。当時は広告を出しても、ホームページに掲載しても、ハローワークに載せても、なかなか人が集まらない時代でした。そんな中で、インスタグラムで「型破り保育」のブログを始め、「こんな職員に来てほしい」「うちではこういう働き方ができる」という内容を発信し続けました。すると、1年3か月で問い合わせが150件も来ました。履歴書を送ってもらえたり、説明や面接でやり取りを持った方が70人もいました。求人の面で非常に大きな成果がありました。
さらに、理念に共感して入ってくる職員が増えたことで、ただの“保育士”ではなく、自分の特技やスキルを活かしながら保育に取り組む職員が増えました。最近で言えば「二刀流」のように、保育士でありながら別の分野でも活躍できる人材が多くなってきています。


バレーボールもその一環として始まったということなのですね。
そうですね。バレーボールを始めたのは、ちょうど4年前の6月頃です。
その頃からインスタグラムで求人は行なっていたんですけど、やっぱり近隣の方しか応募がなくて。「他府県や他都市から、どうやったらうちの園を選んでもらえるだろう?」と、ずっと模索していたんです。
それでバレーボールと繋がったのですね?
はい。たまたま保育園に置いてあったフリーペーパーを見ていたら、関西のどこかの大学女子バレー部のユニフォーム姿の写真が載っていたんです。それを見て「保育科って、バレー部にもいるのかな?」って職場でつぶやいたら、職員が「いるんじゃないですか?」って軽く返してくれて(笑)。
すぐインターネットで調べたら、教育学部や福祉学部、看護学科、栄養学科……うちで働ける資格が取れる学部が全国に百数十校あることがわかったんです。
「これは相性がいい!」と直感して、1週間後には「Viore NAGOYA」というチーム名を作り、2週間後には「始めます」と宣言して、7月の頭には大学に求人票を配っていました。
すごい行動力ですね! そのスピード感が素晴らしいです。
ありがとうございます。ちょうどその時期、新卒さんが動き始める6〜7月だったので、タイミングを逃すと1年待たないといけない。
だから「今やるしかない!」と、2週間後にはもう大学に求人票を届けていました。


名古屋を拠点にされていますが、この地域ならではの魅力はありますか?
名古屋だから特別というわけではないですが、実際、東は東北や関東、南は宮崎・鹿児島まで、全国から来てくれています。
日本の真ん中にあるので、全国からアクセスしやすいのが強みかなと思っています。
保育士さんの質の向上について、何か取り組んでいることはありますか?
園内研修を増やしています。ただし、内部の職員が教えるのではなく、外部の講師にお願いして「うち専用」の研修プログラムを作ってもらっています。
一般的な「保育の内容」ではなく、一般企業で行われるような「新入社員研修」「中堅研修」「マネジメント研修」を、保育の現場に置き換えた内容です。
保育技術というより「組織での人材育成」のような視点でやっています。
保育士さんが働きやすい環境づくりについては、どんな工夫をされていますか?
大きく2つあります。1つ目は、国や名古屋市の配置基準よりも多く常勤職員を配置していること。これで、休みが取りやすく、1人担任でも普通に休める体制が作れています。
もう1つは、年齢層のバランスです。どうしても若手とベテランだけに偏りがちですが、様々な年齢層がいないと「保育の継続性」が保てないと思っています。今では7割以上が既婚者で、子育て中の職員も多いです。産休・育休がしっかり取れて、完全シフト制で残業や持ち帰り仕事もない。
そういう「働きやすい風土」が根付いてきたと感じています。


栄寿福祉会で育った子ども達に、どんな大人になってもらいたいですか?
「保育士になってほしい」という気持ちで保育をしているわけではないんです。でも卒園式の頃になると、「保育士さんになりたい」という子が毎年1〜2人出てくれて、それはとても嬉しいことです。
ただ僕は「粋で、余裕のある、かっこいい大人を見せたい」と思っていて。
子ども達が「早く大人になりたい」「大人になったらあれがしたい」と、夢を持てるように育ってほしいと思っています。
今後の展望や、これから挑戦したいことはありますか?
2つあります。1つ目は「農業法人を作りたい」という夢です。
今、園で千坪の畑をお借りして活動していますが、食育や健康において「食」はとても重要です。自分達で安心安全な食材を作り、小さな規模でも安定して提供できるようにしたいんです。
もう1つは「保育士の養成校を作りたい」という夢です。
子どもが減る一方で、保育士の養成校は全国でどんどん減っています。
「遊ぶために働け」という理念のもと、余裕を持って、かっこいい教育者として子どもの前に立てる、そんな保育士を育てる養成校を作りたい。
少し壮大かもしれませんが、そんな未来を描いています。
社会福祉法人栄寿福祉会

住所
〒454-0945
愛知県名古屋市中川区下之一色町西ノ切49-29
アクセス
名古屋市営バス 一色大橋バス停より徒歩約3分
三重交通バス 下之一色バス停より徒歩約3分4
連絡先
TEL:052-303-4450