2015.07.15
保育士のメンタルケア講座

vol.8 緊急対談 ストレスチェック制度って何? どうしたらいいの?

保育士のメンタルケア講座vol.8 緊急対談 ストレスチェック制度って何? どうしたらいいの?──一般社団法人 中小企業EAP普及推進協議会 宮川浩一氏・精神科医・執筆家 奥田弘美先生

ストレスチェック制度の目的はセルフケア

編集長:去年から、ストレスチェック制度が義務付けられるという話を聞いていましたが、それがいよいよ、決定したということで、園の運営者がどのようなことを行えばよいのか、どういう制度なのかということを、奥田先生と、ストレスチェック制度に詳しい宮川さんも交えて対談したいと思います。
では初めに、ストレスチェック制度とは、どのような制度なのでしょうか。

宮川:50人以上が就業する企業(園)については、今年の12月から年1回、従業員に対してストレスチェックを行う制度になります。昨年の6月に労働安全衛生法が改正されて、義務付けされました。
従来、健康診断は年1回実施されています。そして、その結果は、企業(園)に対して提供されています。ただ、ストレスチェック制度は、取り扱う情報がセンシティブで、メンタルに関わる部分ですので、基本的には本人の同意がない限り、企業(園)には情報提供できないところが一般検診と違います。
なぜ、実施するようになったのかというと、日本のメンタルヘルス不調者数が問題になっているからです。日本の自殺者は最近では若干減ってきていますが、職場のメンタルヘルス不調者は減っていないのが現状です。国も2010年から動き出し、「職場の不調者を発生させない環境づくりをしていかないといけない」ということで、今回、この制度が制定され、実施するに至りました。
この制度の目的は、やはりセルフケアです。自分自身で、自分の状態を知って、不調にならないよう努めていくことを目的としています。そして、もう1つは職場です。職場環境を、しっかり整備、もしくは改善することで、不調者を発生させないように、企業としては「安全配慮の一貫で取り組んでください」というところが趣旨になります。

編集長:具体的に、このストレスチェックでは何をするのでしょうか?

宮川浩一氏(左)、奥田弘美先生(右)

宮川:基本的にはアンケート用紙、調査票というもので実施していきます。これは紙でもWebでもできるようになっています。
4月に、厚生労働省から「省令」・「ガイドライン」が、5月には「ストレスチェック制度マニュアル」が公表されました。この中で、「職業性簡易ストレス調査票」というアンケート用紙があります。質問項目は57項目あり、3つの領域に分かれて質問が掲げられています。
1つ目は、『職場でどんなストレスの要因がありますか』ということを尋ねる設問。2つ目は、、自分のストレスの状態、例えば、憂うつ、辛い、疲れたなど、反応の状態を知るための設問。3つ目は、『同僚や上司からの支援はありますか』ということを尋ねる設問です。
この3つの領域から作られているアンケート用紙を使用することが、今回、標準推奨として提示されています。

編集長:このアンケート用紙を従業員に書いてもらうのでしょうか?

宮川: はい。回答してもらったアンケートを回収し分析します。アンケート用紙を分析したら、一人ひとりのストレスプロフィールを作って封筒に入れた状態で、個人にお渡しします。

奥田:この制度を受ける機会を全員に与えなければいけないのですが、どのような結果が出たかなどは本人の同意がない限り、企業(園)は知ってはいけないことになっています。
なぜなら、企業(園)が結果を見て、「あやしいから昇進させないでおこう」とか、「リストラの対象にしよう」等、不利益扱いをする可能性があるからです。それを防ぐためにも、本人の同意がない限り企業(園)には開示しないのです。
そこは健康診断と最も違うところで、健康診断では、法定項目という項目について、企業(園)は内容を知らなければいけませんが、逆にストレスチェックは守秘義務が厳しいのです。それがこの制度の難しいところです。

編集長:この制度を企業(園)が行い、個人にストレスプロフィールが届いた後はどうなるのでしょうか?

宮川:一定の基準に基づいて、高ストレス者と判断し、その方にはストレスプロフィールに「あなたはストレス度が高いですよ」というコメントを表示、またはその旨の通知を封筒に同封します。
これを受け取るということは、「面談指導を受けてくださいね」という通知になりますので、自分で申し出をしてもらいます。これは、園であれば園に対して「面談させて欲しいです」と、申し出るのです。申し出があった場合には、産業医との面談指導のセッティングを、園としては対応しなければいけません。

大切なのは、自分で自分の状態に気づくこと

ストレスチェックプロフィール・職場判定図

編集長:絶対にしなければいけないのでしょうか?

宮川:しなければいけないのです。ただし、これは当事者が希望してきた場合に限ります。高ストレス者に該当する人全員が、自動的に面談する制度ではありません。

編集長:そこは自己申告ということですね。

宮川:はい。さきほど奥田先生が仰ったように、「これを知られると会社(園)にいられなくなるのではないか」と思い手を上げない人が出るのではないかと懸念されています。
大切なのは、まずは自分で自分の状態に気づくことです。そして、ストレスをどう受け止めて対処していくかを考え、行動することで、ストレスの軽減に努めていただくというのが趣旨ですね。
それから、もう1つ、この制度には趣旨・目的があって、個人のみではなく、集団分析、組織分析もあわせてやるようになっています。組織分析には2つの指標があって、1つは仕事のコントロール度・量的負荷の指標と、もう1つは同僚・上司の支援の指標です。
職場を分析していき、分析結果を受け、職場環境改善に取り組んでいただきたいというのがこの組織分析の趣旨です。

編集長:そうなのですね。この制度はどこに頼めば良いのですか?

宮川:ストレスチェックの実施者になれるのは、産業医・保健師・精神保健福祉士・看護師とされています。
産業医と保健師は無条件で実施者になれますが、精神保健福祉士と看護師は、一定の研修が必要です。

奥田:ただ、現実問題、中小企業では難しいと思います。大手企業には専属の産業医や保健師が常勤しているため独立してストレスチェックを実施できるのですが、50人以上1000人以下の中小企業(園)には、嘱託産業医が月に1回訪問するだけです。そういう場合は宮川さんのような専門業者さんに頼むほかないと思います。
業者さんによってサービスは様々だと思いますが、最低限個人のストレスチェックを行い、個人に通知するところまで行ってもらえればと思います。
組織分析に関しては義務化されていませんよね?

宮川:組織分析は努力義務になっています。

奥田:組織分析は努力義務なので、専門機関に安いパッケージで頼むと入っていないかもしれません。

編集長:そうなのですね。ところでストレスチェックは、料金はいくら位かかるのですか?

宮川:当社の場合は、ストレスチェックサービス単体で、一人あたり700円です。

編集長:それは会社によって違うのですか?

宮川:もちろん様々です。サービス内容により料金が変わりますので、何社か調べてみるのが良いかも知れません。

奥田:本当に会社によって様々です。その園で契約されている産業医が、面談までできるスキルのある先生でしたら、質問用紙の回収と、個人へ通知するサービスだけでいいと思いますし、産業医がいないという園ではやはり面談のサービスまであるところを選んだ方がいいとは思います。高ストレス者がいた時に、面談してもらうところがないのでは困りますから。

本人が自覚することで重症化していくことを予防できます

編集長:いくつか調べた方が良いですね。では、50人以下の企業(園)はやらなくても良いのですか?

奥田:義務があるのは50人以上企業(園)ですが、それ以下でも、努力義務があります。まずは制度がどんなものか、責任者は取り組みだけでも知っておかないと、いざというときに動けないですから。
いずれ50人以下の企業(園)も義務化になると言われていますし、特に保育士さんは、メンタルを病む方が少なくないのです。
すべての病気は早期発見が治療に結びつきますので、ストレスチェックを上手に活用することが大切です。チェックを受けると早い段階で本人が自覚することができるので、ストレスケア法を知っていれば自分でも早期対応ができます。すると自覚のないまま重症化していくことが予防できます。

編集長:そうですね。ぜひ活用してもらいたいと思います。
今回は緊急対談ということでお二人にお話をうかがいました。解りやすいお話ありがとうございました。

宮川 浩一
  • 宮川 浩一
  • 経歴


    一般社団法人中小企業EAP普及推進協議会代表理事。筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ健康システム・マネジメント専攻。
    中央大学大学院戦略経営研究科修士課程修了(MBA)。大学卒業後、生命保険会社・就職支援会社のEAP事業部を経て2012年12月一般社団法人中小企業EAP普及推進協議会を設立。
    0次・1次予防である組織の活性化、職場改善の取組等を中心としたメンタルヘルス対策、ハラスメント対策のサポートを得意としている。

奥田 弘美
  • 奥田 弘美
  • 経歴


    精神科医・産業医として老若男女のストレスケアやメンタルケアに関わりながら、本の執筆や講演にて心身の元気アップ法を精力的に伝えている。雑誌、新聞などの監修・連載経験も多数。
    近著は「部下をうつにしない上司の教科書」(東京堂出版)、「ココロの毒がスーッと消える本」(講談社)、「自分の体をお世話しよう ~子供と育てるセルフケアの心~」(ぎょうせい)。
    私生活では13歳と9歳の男児のママであり、保育園に子育てを支えてもらったことに深く感謝している。