vol.9 ストレスに強くなるためのリラックス時間
オフの時間を意識的に取ることが重要
編集長:今回は、ストレスに強くなるためのリラックス時間というテーマで、奥田先生にお話をうかがいたいと思います。
さて、リラックス時間とは具体的にはどのような時間なのでしょうか。
奥田:よく、仕事の時間を「オン」、休み時間などを「オフ」と言ったりします。現代のストレスケアでは、このオフの時間を意識的に取ることが、非常に重要です。
人間の自律神経は、2つの神経から成り立っています。一つは交感神経で、簡単にいうと緊張を促す神経です。もう一つが副交感神経といって、リラックスさせる神経です。
仕事中は、緊張を保って働けるように、交感神経が優位の状態になっています。仕事が終わって自宅に帰るとその緊張が緩み、次第に副交感神経が優位になって、体をリラックスさせて休ませてくれるのです。この緊張と弛緩のバランスが取れると心も体も健康に維持できるのですが、最近はこのバランスが崩れてしまっている人が多くなっています。
その原因の一つに、勤務スタイルが挙げられます。最近は、少人数でできるだけ多くの仕事をこなすような働き方が増えていますよね。人件費削減などで、あらゆる職種の人がオーバーワーク気味に仕事をしています。保育業界も同じで、一人あたりの働く時間やその内容の密度は、すごく増えていると思うのです。
保育士さんの場合は、持ち帰り仕事をする方も多いので、自律神経のオン・オフの区別もすごく曖昧です。メンタル面でも、フィジカル面でも緊張の後には弛緩が必要なのですが、これができないと体調を崩してしまいます。
最近、若い世代の自律神経失調症が増えているのですが、これも緊張と弛緩のバランスが取れていないことが原因です。
特に保育士のような気を張らなければいけない仕事ほど、本当は緊張を緩める時間が必要なのですが、まじめに働こうとして休憩を取らなかったりすると、次第に自律神経失調という状態に陥りやすくなります。
編集長:保育園側も残業を減らしたりできればいいと思うのですが、現実には今すぐには改善できない点だと思います。何か忙しい保育士でもできるような、短時間でできるリラックス法はないでしょうか。
奥田:まずは残業や持ち帰りの仕事をする時も、就寝時刻の2~3時間前までには仕事を終えるように決めてください。睡眠のところでもお話しましたが、睡眠は心と体の疲労回復に一番必要なものです。気を張っている仕事をしている人は、最低でも6時間は睡眠が必要です。でも、人間は機械ではないので、仕事モードとリラックスモードを一瞬で切り替えるということはできません。
人の体は就寝時間の2~3時間前からリラックスしていないと「そろそろ寝る時間なんだ」と認識できません。睡眠を促すホルモンも、リラックスの時間がなければスムーズに分泌されにくくなります。ギリギリまで仕事をしていて「さぁ寝よう」といざ思っても、なかなか寝付けなかったり、仕事の夢を見て熟睡できない状態も多くなります。
この状態を過緊張といいますが、今は非常に増えてきています。過緊張の症状を表1にあげましたのでチェックしてみてください。
実際に私が知る保育士さんの中に過緊張の方がいましたので、とにかく寝る2~3時間前にはリラックスタイムに入ると決めるようにしてください。どんなに忙しい人でも、きちんとリラックスの時間を設けるように区切りをつけてほしいですね。
それからもう一つ気をつけて欲しいのは、スマートフォンやパソコン、ゲームなどでリラックス時間を過ごすことです。これは、ブルーライトが脳の緊張を促してしまうので、実は全くリラックスできません。ブルーライトを見ていると、脳は「日中だ」と勘違いしてしまいます。そのため体が休まらず、逆に緊張を高めてしまうのです。
デジタル機器についても、仕事と同じように就寝前の2~3時間は触らないようにしていただきたいと思います。
おすすめのリラックス方法としては音楽を聞く、お風呂にゆっくり入るという方法です。また保育士さんの中には、アロマを楽しんでいる方も多いので、ラベンダーやカモミール、オレンジスイートなどのリラックス系のアロマを試してみるのもいいでしょう。
緊張状態の続いている人は体の筋肉が張っていると感じている人も多いので、気持ちがいいと感じる程度のストレッチなどもいいでしょう。激しい運動は逆に交感神経を優位にさせてしまうので避けてください。セルフマッサージの方法などは、たびたび雑誌でも取りあげられていますので、注目しておくといいですね。
SNSなどのコミュニケーションを減らすことも重要
編集長:しかし中には、仕事が気になってなかなかリラックスできない人、切り替えが上手くできないなと感じている人もいると思うのですが、なにかコツがあれば教えてください。
奥田:そうですね。よく、若い保育士さんに多いのですが、最近はLINEなどで友達とやりとりをする人が多いと思います。でも、他人との接触はどちらかというと緊張している状態なのです。ですので、なかなかリラックスできないという人は、できるだけコミュニケーションを減らすことも重要です。
家族や心を許せる人など、気を使わない人とのコミュニケーションはいいのですが、SNSなどは相手の反応が気になったり、誰かの投稿を見てストレスを感じたりすることも多いので、できるだけ触れないようにすることも大切です。知らず知らずのうちに他人と自分を比べてしまう人も多いので、なるべく避けるようにすることもひとつの方法です。
ブルーライトは良くないといいましたが、テレビを離れた位置からぼーっと見ているだけで、ピカピカと光が点滅したり激しい動きの画像であったりしなければ、比較的ブルーライトの影響は少なく番組内容によってはリラックスになる場合もあります。テレビを見る場合は、できるだけゆったりくつろげる内容の番組を選び、距離をできるだけ離して時間をくぎって視聴しましょう。
あとは「リラックスしなきゃいけない」と、リラックス時間を過ごすのではなくて、のんびり楽しめるものを選ぶようにしてください。よく頑張ってしまう人もいるので、気構えずにゆったりできるリラックス法を選べると理想です。無理をしないことが大切ですね。
編集長:勤務中でも、休憩時間を使えば多少のリラックス時間を設けることができると思うのですが、保育園側ができる配慮などがあれば教えてください。
奥田:休憩時間を利用して連絡帳を読んだり、電話対応をしたりしている人も多いと思うのですが、休憩時間は業務と切り離してほしいです。
休憩時間は雇用者が労働者に与えなければいけない時間なので、できるだけ独立した休憩時間を確保して、本人の自由にさせてほしいです。
そして休憩時間にリラックス法を取り入れるなら、15分~20分くらいの仮眠をとることがおすすめです。横になるのではなく、ソファなどにもたれたりしてウトウトするだけでも脳や体の疲労回復につながります。園側も、そのような仮眠を促してあげられるといいですね。
編集長:とにかくオンとオフの時間の切替をしっかりするということですね。
奥田:過緊張状態で眠れないとか、朝起きても疲労が抜けていないという方は多いです。まじめな人ほど過緊張になりやすいので、それを予防するためにもリラックス時間をきちんと決めて毎日を過ごしてほしいですね。
ブルーライトに触れないなど、意識的に緊張を緩める取り組みが現代人のストレスケアにはすごく重要だと思います。
編集長:奥田先生、今回も貴重なお話をありがとうございました。
次回はストレスに強くなるためのセルフケア第4弾『考え方をちょっと変えてタフになろう』です。
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経歴
精神科医・産業医として老若男女のストレスケアやメンタルケアに関わりながら、本の執筆や講演にて心身の元気アップ法を精力的に伝えている。雑誌、新聞などの監修・連載経験も多数。
近著は『一流の人は、なぜ眠りが深いのか?』(三笠書房)、『ココロの毒がスーッと消える本』(講談社)、『自分の体をお世話しよう ~子供と育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)。
私生活では15歳と10歳の男児のママであり、保育園に子育てを支えてもらったことに深く感謝している。