第1回 保育園・幼稚園の音環境の課題
子どもと音環境について研究されている志村洋子先生にお話をうかがいました!
こちらのWEB連載では誌面に載せきれなかった、子どもの音環境に関わるお話をより詳しく紹介していきます!
私は埼玉大学で幼稚園教員・保育者養成の教員をしていたのですが、幼稚園へ実習に行くと、ほとんどの学生が声がかすれたり、出なくなって大学に戻ってくることに気づきました。
理由を調べると、普段の生活では出さないような大声を毎日出しているからでした。子どもは園にいる5時間から8時間の間に、園児達が持つエネルギー全部を出し切るので、とても大きな声を出して過ごしているんですね。すると、保育者もそれを上回る声を出さざるを得ず、実習生もそれに倣うので慣れていない分ガラガラ声になってしまいます。
幼稚園よりもこども園、保育園ではもっと長時間の保育になりますから、そんな大きな音の中に長時間いる環境でいいのかと思ったのが、保育園・幼稚園の音環境について研究するきっかけとなりました。
ヘッドホンでずっと大音量の音や音楽を聴いていると難聴になるという話を聞いたことはありませんか?
今、iPhoneのヘルスケアに聴力に関する解説があり、どれだけの音量にどれだけ晒されると危険なのかがわかりやすく示されています。WHOが大人の1週間の暴露限度を示し、大人にとっても大音量を聞き続けると「難聴」になる可能性は広く知られるようになりました。
では、保育室の騒音レベルはどのくらいなのでしょうか?
これまでわれわれが実施した国内での保育室内(吸音材無し)での騒音レベルは、午睡時間を除く1日の平均で85dB、最大で100dB超にもなりました。これは、「地下鉄の車内」に相当します。
また、こうした保育室は吸音しないため、音が反響して響きすぎる傾向がありました。つまり、保育者も子どももこうした騒音に毎日、長時間晒されているのです。午睡時間を除き、大音量の環境に居ることを念頭に置いていただければと思います。
2年間、保育園にいる間に難聴と診断されたというご兄弟を知っていますが、幸い小学校に行ってから治ったそうです。日々、様ざまな音を聞き、吸収して成長する時期にその「聞こえ」が阻害されてしまうというのは本当に残念なことです。
海外の共同研究者と一緒に幼稚園へ見学に行った時のことです。彼らは保育室で保育をちょっと見るとすぐ出て行ってしまい、「このにぎやかさに耐えられない。耳が痛い。」と言うのです。日本にはまだ室内の「反響する音」に関する基準がないため、それぞれ保育室の音の状況はバラバラであることを伝えると、研究者達はとても驚きました。海外では、保育室の残響時間については明確に基準が定められている国も多いのです。
保育室の衛生面や安全面はみなさんも気にするところだと思います。しかし、音の響きや音量についてはどうでしょう。このにぎやかな音環境のまま保育をしていて本当に良いのでしょうか。
子どもは、すべてが発達の途中です。それは、耳の機能も例外ではありません。また、保育者にとっては長時間働く環境としても整える必要があるのではないでしょうか。
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博士(教育学)、埼玉大学名誉教授、東京藝術大学音楽学部声楽科を卒業、東京藝術大学院音楽研究科修士課程修了、現在は「同支社大学赤ちゃん学研究センター研究員、保育施設の室内音環境改善協議会代表。
主な研究分野は「乳幼児の歌唱音声の発達」「乳児音声とマザリーズ音声の音響分析研究」「保育室空間の音環境に関する研究」「騒音環境が乳幼児期の聴力に及ぼす影響に関する研究」ホームページ:https://hoiku-otokankyo.org/