2022.06.20
保育環境と音

第3回 園の音環境による影響

警告! 今のままでは保育園・幼稚園の「音」環境に問題あり!? 「保育環境と音」の専門家が語る子どもの「耳」の発達に悪い影響を与えている要因とは!?──第3回 園の音環境による影響
実は「音」環境が子どもの発達やストレスに大きな影響を与えているって本当?
子どもと音環境について研究されている志村洋子先生にお話をうかがいました!

こちらのWEB連載では誌面に載せきれなかった、子どもの音環境に関わるお話をより詳しく紹介していきます!

音環境は保育の質にも関わってくる大きな要素です。音環境が悪いと、どういう影響があるのでしょうか?

 

室内に音が反響すると、その反響した残響音にかき消されないよう保育者だけでなく子どもも大きな声で話すようになります。それが常態化すると、保育者も子どももどんどん声が大きくなり、室内の音量はさらに大きくなるという悪循環に陥ります。

また、お友達とのいざこざも目立つようになります。子どもは自分の伝えたいことをしゃべっているのですが、うるさい環境では怒鳴るような大声で話すので、声が相手に届いた時には、相手はちゃんと聞いていなかったり、怒っていると誤解します。つまり、お互いの言いたいことや、また声が伝える「気持ち」までもが明瞭に伝わらないので、無視されたり、間違って理解されたりしてトラブルの原因にもなってしまうのです。

他にも、保育者の傍にいつもいることが多い子は、保育者のことが「好き」だからだけでなく、「聞こえ」(聴力)が良くないために保育者の言葉を近くで聞き取りたいからということもあります。
一斉の指示が通らなくてうろうろする子も、問題を抱えているのではなく、単に保育者のことばがしっかり届いていなかったということもあるんですね。子ども自身の問題だと判断する前に、「聞こえ」の環境が適切かどうかを考えてみてください。音の環境を改善することで、子どもの行動が変わるということは大いにあり得ると思います。

そして今、一番問題なのはマスクをしていると話す人の口元が見えないことです。
話している相手がどういう言葉を発しているのか、特に「子音」を発する時の口元の動きを見ることは言葉の聞き分けには重要です。その上、保育室内の残響時間が長いと、反響音が混在しているのでさらに聞き取れなくなってしまうんですね。
だからこそ、口元が見えにくくても声や言葉の変化が明瞭に聞こえる保育室が必要になってくるのです。

 

英語の活動時についてはきちんと音量測定をしたことがないので断定はできませんが、音環境によってカリキュラムにも影響はあると考えています。

幼児向けの英語では、特に多様な発音の変化を知らせることが重要視されていると思いますが、英語の先生や保育者の発音と共に、周囲の雑音も大きく聞こえていたらどうでしょうか。肝心の英語が持つ様ざまに変化する発音が聞こえにくかったら? 音が反響する環境では、英語が表現する音の変化をしっかり聞き分けることは難しいかもしれません。

保育者がピアノを弾いて子どもがそれを聞く場合、保育者が楽しそうに鍵盤を弾いている姿と、ピアノの音色に子どもの興味が惹きつけられます。はっきり音が聞こえて、その音の連なりがもたらす様ざまな響き、ハーモニーの変化が楽しいのですね。そのバランスが良いから楽しく聞けるのですが、メロディと一緒に歌ったり、動いたりするとさらにいろいろな音が一緒に反響し、それが重なり合うと聴き取りにくくなってしまいます。「カクテルパーティ効果*」の力がまだ育っていない時期の子どもにとって、室内の音環境は「音楽」を聴く楽しさにも関わっているんですね。

*カクテルパーティ効果:騒がしい環境や賑やかな所でも自分に関係がある音や音声を選択的に聞き分けられる「聞こえの力」をさす。

 

こうしたことを考えると、言葉や音楽の聴取などの情報処理の力は成人期までかけてゆっくりと発達しますので、乳幼児期に聴く力の育ちを妨げない音環境で日々過ごすことは大切です。今一度、保育室の空間構成に目を向けて、音環境を見直していただきたいと思います。

 
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志村 洋子(しむら ようこ) 経歴
  • 志村 洋子
  • 博士(教育学)、埼玉大学名誉教授、東京藝術大学音楽学部声楽科を卒業、東京藝術大学院音楽研究科修士課程修了、現在は同志社大学赤ちゃん学研究センター研究員、保育施設の室内音環境改善協議会代表。
    主な研究分野は「乳幼児の歌唱音声の発達」「乳児音声とマザリーズ音声の音響分析研究」「保育室空間の音環境に関する研究」「騒音環境が乳幼児期の聴力に及ぼす影響に関する研究」

    ホームページ:https://hoiku-otokankyo.org/