2025.04.15
\ノガミキ流/保育士働き方改革委員会

第13回 MiRAKUU Special Talk Session 【超人気保育園】 園長先生の頭のなか〈前編〉

\ノガミキ流/保育士働き方改革委員会──第13回 MiRAKUU Special Talk Session 【超人気保育園】 園長先生の頭のなか〈前編〉 【保育園経営者】社会福祉法人風の森統括 野上美希 × 【現場運営責任者】Picoナーサリ和田堀公園園長 伊藤優里

今回からは2回にわたって、風の森が働き方改革を進めた園で保育現場をお任せしている園長に、園運営について対談形式で聞いていきたいと思います。成功する園の秘訣やヒントがあるはずです!

Picoナーサリ和田堀公園
  • 保育士2倍配置の社会福祉法人風の森が運営。平成30年4月開園、0歳児~5歳児合わせて園児定員120名の大規模保育園。緑が茂る広大な都立公園、和田堀公園の敷地内に国家戦略特区として特別に設立され、保育環境の良さから大人気園となっている。
伊藤 優里
  • 【現場運営責任者】
    Picoナーサリ和田堀公園園長

大規模園の運営について

野上:大規模園ならではの良さは?

優里:シンプルに、園の規模が大きければ大きいほどたくさんの子ども達に出会い、成長が楽しめることですね! そして子ども達だけではなく、たくさんの先生達とも出会えることも良いところだと思います。賑やかで楽しいですよ♡ 大勢のスタッフが行事などで1つの目標に向かい、協力し合う団結力も見事です。

野上:やっぱり行事はダイナミックですよね!

優里:行事は一つひとつ達成感が大きいですね。あとは、色いろな先生がいるので、研修などで保育士同士、保育知識をお互いに学べる環境が広がっています。

野上:様ざまな先生の様ざまな知恵や感性に触れることができますね。

優里:若い先生も良い考えや持っているものがたくさんありますね! 私達が忘れていたところを思い出させてくれたり、新しいことに気づかせてくれたりもあります。
運営面では、職員が多いので急なお休みもカバーしやすいですね。

野上:和田堀園ができた時、駅遠・マンモス園ということで当初は不安も少なからずありましたが……いまや大人気園ですから。

優里:ありがたいですね。先生達が日々丁寧に保育を作り上げてきてくれたものがあるということをいつも感じています。

野上:逆に、難しいことや大変なことは?

優里:私はあまり困難を感じていないですが、あえてマイナス面で言うなら、行事の計画がちょっと大変ですかね。保護者の動線や、きょうだい児童の調整、時間設定など、園児120人にそのご両親、ご家族となるともう大イベントですので。
あとは、毎年の担任決め。これは職員間の相性や保護者との相性もあって、大いに考えます。

野上:先生達の成長とのバランスもありますよね。

優里:そうなんです。リスクを最小限に、先生の成長を最大に、というところで、園長の腕の見せどころですね。自分で言うのもなんですが、上手くいっています(笑)。嬉しいですね。大変ですが、やりがいに繋がっているところです。

野上:優里先生が先生達一人ひとりを見られているということですね!

優里:見てあげたいと日々思っています。子ども達はもちろん、大人も。連絡帳のチェックや毎日の園児の様子把握、スタッフの元気や様子の確認、子ども一人ひとりの様子を見るのもスタッフ一人ひとりの様子を見るのも、人数が多ければそれだけ手間も時間もかかりますが、必ず確認します。

園運営で課題が出たとき、どのように乗り越える?

野上:どの園でも日々、大なり小なり課題があると思いますが……。

優里:乗り越えるのって、大きければ大きいほど大変ですよね。だから日々小さなことを拾って、小さいうちに摘み取るのがポイントだと思います。私は解決・対応のスピード感を大事にしていて、引き延ばさず、必ず即日に、を徹底するようにしています。

野上:見て見ぬふりをしたくなってしまう問題ってありますよね。それに対処するのは、小さくてもパワーが要ることですから、「どうにかなるかな」という期待感で放置するのは厳禁です。少しの違和感のところでスピーディに対応することが大事ですね!

優里:その通りですね。課題(問題)が大きくなる前に、小さな事柄にもアンテナを張り、対応することを心掛けています。保護者対応などは特に。

野上:そこに気づけるようなベースの部分、日々の土台を作っておくことも大事ですね。課題を課題として認識できるかというところも重要かなと思います。

優里:私は日々の連絡帳やスタッフとの会話の中で、保護者の話や癖など自分なりにファイリングしていきます。それは頭に入れておくようにしています。

野上:優里先生の頭脳にインプット? それとも何かに記載しています? 120人の園児に、そのお母さんとお父さんとの関わりがあるので……膨大な量ですよね。

優里:基本的には書いていないですね。書いておくのもいいのですが、文章にしてしまうとそれに囚われすぎることもありますし、持っていかれてしまう。人の気持ちは動くものなので、常に上書きが必要だと思っています。

野上:頭の中でアップデートさせていくっていう感じなんですね。すごい能力!

優里:人柄など決めつけず、自分はフラットな気持ちでいないと、職員の先生達に見方を植え付けることになってしまうので、それはしないように気を付けています。子ども、保護者、先生達のことも、あえて自分の頭の中に入れています。

野上:すごい。

優里:あとは、何かあったときには、主任、クラスリーダー、必要があれば保育士全員と話し合うことですね。園長1つの意見で決めるのではなく、必ず先生達と話して行動していくことが大切だと思います!

野上:大事なポイントですよね。園長が『私の意見!』と押し通す園も実際あります。転職希望の先生から「こうしてみたい、でも園長がこうじゃないと言うから、できない」という話も聞きますね。もっとこういう保育がしたいという思いがあるのに、上の人にダメと言われるというのは、離職に繋がる要因でもあります。

優里:誰かが決めてくれる、または導いてくれる人がいるという方が楽なときもあるでしょうが、うちの園の場合は、自由だけれど常に自分で考えないといけない。私は「正解を言ってくれない人」と思われているかもしれませんが、考える力に繋がっていると思っています。

野上:あえて先生達に考えさせているんですね。園長の意向を通す状況ってありますか?

優里:私にももちろん、園長としてこういう保育園にしたい、子ども達にこういう体験をしてほしいという思いはあって、子ども達への関わり方が園の方針と極端にずれた時には補正しますが、その時はまず、先生がどういう風に考えその活動に繋げているのかを聞き、必ず受け止めてからするようにしています。保育の内容を先生達に任せているといっても、何でもかんでも先生達の言うことを聞くということではないですよね。そこの線引きは園長の覚悟だと思っています。

野上:バランス感ですね。『なんでもいいよ』と、園の方針や考えが分からないのも先生達は困っちゃいますからね。

園長として、一番大事にしていること

野上:いちばんコアな部分ですね。

優里:保育士の先生達がやりたいこと、こんな保育をしたい、こんなことを子ども達とやってみたいと思ったことを主体的にできるように、保育士一人ひとりの個性を大事にしています。子どもももちろん大事だけれども、その前に先生達を大事に。まずは先生達が豊かであってほしいです。先生達も一人ひとり違うので、保育士の個性を認め、最大限に生かすのが園長の仕事だと思っています。

野上:子ども達にとっても、豊かな大人と関わりを持つことに繋がりますね。

優里:保育において子どもが真ん中であることは確かですが、私は先生達に一番幸せで笑顔でいてほしい。先生達(大人や保護者も)が幸せに生活をしていれば、その空間は良い空気感に包まれているはずです。そうすれば自ずと子ども達も幸せになれるという思いで、働く職員にとって心地よい職場づくりも大事にしています。そこはぶれていないところですね。

(MiRAKUU vol.50掲載)

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野上 美希(のがみ みき)
  • 社会福祉法人風の森 統括
    学校法人野上学園 主事
    株式会社野上アカデミー 代表取締役
    一般社団法人キッズコンサルタント協会 代表理事


    大手シンクタンクにて、コンサルティング、採用、営業を経験した後、人材紹介会社にて事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメントする傍ら、女性のための人材紹介サービスの代表も務める。自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わる。
    成長著しい時期である0歳~9歳(シングルエイジ期)においての一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、6つの認可保育園を開設。
    また、キャリアカウンセラー資格を活かし、保育士のための仕事紹介サービス『保育ウィルキャリア』も主宰し、自園以外の保育士のキャリアに対しても寄り添う。幼稚園の採用のみならず、認可保育園を毎年1園ずつ増やす中で、独自の採用手法により、国基準の2倍の保育士確保を実現。現在、業界に先駆けて保育者の働き方改革を実践している。