子どもとと「食育」:服部幸應
『食育』の大切さを社会の大きな問題として取り組む
編集長:服部先生の『食育』に対する考えをお教えいただけますか?
服部先生:『食育基本法』というものがあるのですが、実は私も関わってできた法律です。
皆さんあまりご存じないですよね。
21世紀の栄養と食を検討する委員会のメンバーとして会議に参加した際「21世紀の食はどうなると思うか?」と質問されました。
そこで「食育がうまく連動していないために、知育・徳育・体育の3つの柱で構成される教育自体が十分に機能していないのでは?」という意見を述べたことがきっかけで、当時の厚生大臣である小泉純一郎氏がすぐに内閣総理大臣になり、その指示で食育調査会が立ち上げられ、私もアドバイザーとして関わりました。
その時に作ったのが『食育基本法』です。
編集長:法律に関わられていたとは、初めて知りました!
国レベルでの子どもの食育を考えていらっしゃるのですね。『食育基本法』とは、具体的にどんなものですか?
服部先生:『食育基本法』では最初に、選食、衣食住の伝承、食糧・環境問題の3つの柱を掲げました。
選食というのは、どんなものを食べたら安全か、健康になるのかを知り食を選ぶことです。
また、子どもが食卓で家族と共食することで一般常識が身に付くので、衣食住の食卓での伝承も欠かせません。
そして、この3つの柱を家庭・学校・地域の3つの教育の場が連携して、男女、年齢、職業などに合わせて組み立てていくべきとしました。
現在も内閣府の食育推進室に在籍しており、日本全国の食育推進基本計画を推進する活動をしています。
編集長:なるほど。政府と連動して食育の発展に取り組んでいらっしゃるのですね
たしかに現代は「家族が食卓で共に食事をとる」ということができない家庭がとても多いですよね。
家庭での食育に関して教えてください。
服部先生:『そうですね。言い方が少し悪いかも知れませんが、食卓で家族と食事をとることは子どもを餌付けするようなものです。
しっかりと家族で食事をとり「共食」を子どもに見せながら教育していかなければならないのです。
現在、子ども達の非行やニート問題、仕事の途中で挫折してしまう大人が増えていることなどの社会問題も、「共食」ができていないことが原因だと思います。
家族全員でちゃぶ台を囲んで食事をとる光景は、ほとんど見られなくなってしまいましたよね。
家族みんなで食事をとることは、お箸の使い方や食事のマナーを教え、好き嫌いをなくすようにし、さらに一般常識も教えていくことができます。
家族間のコミュニケ―ション時間も増えますからね。
編集長:家族で食事をとることは、子どもの教育やコミュニケーションなど様ざまな重要な役割を果たしているのですね。
子どもの3つの成長時期に教える大切なこと
服部先生:子どもの成長には0~3歳・3~8歳・8~12歳の3つの区切りがあり、大人は子育てをする上でその区切りをよく見て子どもに接しなければなりません。
0~3歳は両親を認識する時期、母子関係形成期間です。
そして3~8歳は小脳が完成していく時期です。
小脳はもともと運動機能や本能に関係している動物脳ですが、3~8歳の成長過程で家族で共食をすることで、動物脳から人間脳へと変わります。
そして、そのあと12歳ごろに大脳が完成します。
前頭葉は、ものの善悪を判断する場所です。
小脳がしっかりと人間脳になっていれば、善悪を正しく判断できる子に育ちます。
もし小脳が動物脳のままなら大脳も動物脳になってしまい、この8歳の時期を逃すと変えることはできなくなってしまいます。
この3~8歳の時期には、食卓での食育を通してマナーや一般常識を教え、子どもの成長をしっかりと支えてあげてほしいですね。
それぞれの時期を親が理解し、適切な教育、接し方をしてあげることが大切です。
編集長:子どもの成長には段階があるということですね。
幼い頃は動物脳であると聞いて驚きました。
子どもと家族関係を築いて、人間としてしっかりとした考え方が出来る子に育つ環境をつくることが大切ですよね。
服部先生:そうですね。特に0~3歳の母子関係形成期間を大切にして欲しいです。
母乳をあげるときに、母親の脳からオキシトシンという物質が出ます。
オキシトシンは簡単に言うと、相手を大切に思うときに出る物質です。
これにより愛情が強くなり、親と子の絆は深まります。
さらに母乳にはイムノグロブリンという物質が含まれていて、人工乳とはかなり違ってきます。
どうしても母乳を与えられない時は仕方ありませんが、2歳までは極力、母乳をあげるようにしてほしいですね。
編集長:母乳を与えることがとても大切ということですね。
人工ミルクの普及で母乳をあげなくても子どもが育つ時代ですが、子どものためにもなるべく母乳を与えるようにして欲しいですね。
服部先生:突然ですが、現在子守唄がどれくらい歌われているか知っていますか?
実は今は、昔の3分の1ほどしか歌われていないのです。
それだけ子どもと一緒に過ごす時間が減っているということですね。
子守唄を歌ってあげる時間が減っているのと同様に、子どもに物語を聞かせながら寝かしつける機会も減っています。
子守唄や物語を聞かせてあげる時間は、子どもの想像力を育てる大切なものです。
例えば、子ども達が物語を聞いて、自分の頭の中で「12時になったら馬車がただのかぼちゃに戻ってしまう」様子を想像することと、テレビで「12時になったら馬車がただのかぼちゃに戻ってしまう」様子を見せられることとは、全然違います。
僕が子どものころは、寝る前はいつも祖母がお話をしてくれました。
毎回、結末を聞く前に気持ち良くなって寝てしまいましたね。
物語の結論はほとんど覚えていませんが、祖母とのコミュニケーション、祖母が子守唄や物語を聞かせてくれた姿はとても印象的に記憶に残っています。
私の場合は祖母でしたが、親としてイメージを残すこと、これが重要なことですよ。
家族間のコミュニケーションから家族の絆が生まれますからね。
編集長:確かに、親が子守唄や物語を聞かせながら寝かしつける過程は少なくなっているかもしれませんね。
私も今まで以上に、親子のコミュニケーション時間を多くとるように意識していこうと思います。
先生方に伝えたい保育園の役割と食育のこと
服部先生:保育園や学校の先生方向けに講演をすることがあるのですが、先生方には子どもに親の存在を分からせる保育をお願いしたいですね。
先ほど母親の母乳の大切さや家族間のコミュニケーションの大切さをお話しましたが、現在は0歳でも保育園に預けるのが当たり前になり、そのような機会が減ってきています。
子ども達は、保育園でとても大事な時期を過ごすことになります。
だから、保育園の責任は本当に重大です。
子どもと親のコミュニケーションが大切な時期に保育園に預けるのだから、保育士の方々には両親の存在をしっかり認識させる保育をして欲しいですね。
お父さん、お母さんってどんなものなのか、子ども達に説明できるように先生方の教育も必要だと思います。
また、保育園で子ども達が過ごす時期は子ども達が動物脳から人間脳に変わる時期でもあるので、子ども達の成長の環境づくりを意識してもらいたいですね。
最初、子ども達は動物脳なのだから自分で考えることができないのが当たり前なので、環境をつくってあげるという点で保育園の役割はとても重要ですね。
保育園では家庭よりも大人数の団体で生活するので、団体行動の目線が生まれることはいいことですよね。
編集長:保育園には「子ども達の大切な成長時期を預かっている」ということを忘れないで欲しいですね。
では保育園での食育に関しては、どうお考えですか?
服部先生:保育園での食育ではまず、人間らしくきれいな食べ方をすること、次の段階として栄養を考えバランスよく食べることを教えて欲しいですね。
栄養面の配慮だけではなく、家庭と同じように食事マナーも意識する必要があります。
そして保育園では、教育機関として、保護者に先ほど述べたような家庭での共食の大切さを伝えて、連携を取るようにして欲しいですね。
編集長:では、最後にMIRAKUU の読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
服部先生:今日は様ざまなお話をしましたが、私が一番お伝えしたいのは、子どもの成長における3つの区切りについ てです。
それぞれの期間に、子どもにしてあげて欲しいこと、教えなければいけないことがあります。
家庭・保育園の両方でこのことを理解した上で、責任をもって子ども達に接して、子どもの成長を支えてあげて欲しいですね。
編集長:服部先生、貴重なお話ありがとうございました。
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服部 幸應先生
(学)服部学園 服部栄養専門学校 理事長・校長/医学博士、健康大使。
東京都出身。立教大学卒。昭和大学医学部博士課程修了。(公社)全国調理師養成施設協会会長、内閣府「食育推進会議」委員
「早寝・早起き・朝ごはん全国協議会」副会長など
厚生労働省・農林水産省・文部科学省の委員
東京都「食品安全情報評価委員会」・「地域特産品認証基準策定および認証審査委員会」委員
昭和大学(医学部)客員教授、広島大学(医学科)客員教授、東京農業大学客員教授
東京大学( 総合癌研究国際戦略推進) 講師、他多数。著書等
著書に「食育のすすめ」(マガジンハウス)
「なぜ、好きなものだけ食べてはいけないの?」(シーアンドアール研究所)
「食べて元気!」( デアゴスティーニ)、その他多数。服部学園 服部栄養専門学校
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-25-4