2025.10.15
MiRAKUU対談

子どもの頃の経験と新たな学びを胸に“素敵な生き物”と関わる──水野 真紀さん

子どもの頃の経験と新たな学びを胸に“素敵な生き物”と関わる──水野 真紀さん

期待に応える責任感

堀川:水野さんはなぜ俳優になったのですか?

水野:私、好きな男の子のお嫁さんになるのが夢でした(笑)。でもその子に冷たくされてしまって。そんな時、姉が「東宝シンデレラ」オーディションの新聞広告を見つけたんです。その子のお母様が某映画会社の元専属女優さんだったので、向こうを張って東宝で賞を取れば見返せると思って。

堀川:応募したのですね。初めから俳優を目指していたわけではないのですね。

水野:俳優という仕事は雲の上の人がやるものだと思っていました。でもマネージャーさんが頭を下げて仕事を持ってきてくれるのだから、真面目にやらないと申し訳ないという責任感だけで続けてきたようなものです。

堀川:期待に応えたいという感じでしょうか?

水野:それですね! 小学2年生の時に運動会のリレー選手に選ばれて、期待されている以上はきちんと結果を出さなくてはという責任感はその時芽生えたと思います。そういう意識がずっと続いている感じ。でも結果としてそれが良かったと思います。

暗黒の幼稚園時代と恵まれた地域コミュニティ

堀川:子どもの頃はどんなお子さんでしたか?

水野:幼稚園は暗黒時代でしたね。3月末生まれでぼんやりした子だったので、先生の話を聞き逃したり理解できなくて叱られたり、みんなと同じように行動できなかったりしました。マンモス園だったこともあって先生の目も行き届かず、よくピーピー泣いていましたね。
一方で家庭環境は恵まれていたと思います。典型的な東京のサラリーマン家庭で社宅住まい。社宅は3階建ての棟が2つあって、その間には砂場や鉄棒、木登りできる木などがある公園がありました。ほとんどが知り合いだし、窓からは遊んでいる子ども達が見えるから親達も安心して子どもだけで遊ばせていました。姉弟だけではなく、社宅の子どもコミュニティで自由に遊べて楽しかったです。

堀川:子どもが多い時代でしたものね。親御さんからどのような教育を受けましたか?

水野:母には本を読みなさいと言われていました。小4になると新聞も読むようにと。それと公文ですね。読書や新聞には漢字や文章だけではなく理科や社会の知識も含まれていますし、応用問題を解くための理解力も養われます。この3つのおかげで、学校の勉強には問題なくついていけました。

基礎になることを大切にする子育て

堀川:お子さんを育てられていかがでしたか?

水野:息子は4月生まれで、得だな~と思っていました(笑)。やっぱり違いますね。
地域コミュニティは大切だと思っていて、一人っ子というのもあり、降園後は園バスが一緒の子とよく遊ばせていました。
息子が年少~年中の頃は、仕事に加え夫の選挙も重なって本当に大変で、同居の親をはじめ、ママ友さんにもかなり協力してもらいました。地域コミュニティの力は大きいですね。親子ともども。今も仲良しで。幼い頃の共有の思い出は絆になりますね。

堀川:子育てで大切にしていたことは何ですか?

水野:絵本を読むことと、バスや電車といった公共交通機関をフルに活用することです。移動途中にある視覚的刺激が成育に大切と考えていました。
あとは、排せつですね。毎朝「元気うんちは出てる?」と確認していました。子どもが毎朝排泄するような生活習慣にするということです。食べるものにも影響されますから、幼稚園の頃から白米だけでなく玄米も食べさせていました。息子が小学生の時に友達と旅行に行った時、ビュッフェでお肉以外に野菜もたくさん選んでいたのを見て、伝わっているものだなと実感しましたね。食育に関しては成功……かな(笑)。
また、息子は幼稚園年長の頃から囲碁にハマりまして。囲碁では盤上で陣地計算をするので、遊びながら計算力がついたようです。

子どもと関わることで社会への恩返し

堀川:幼稚園教諭の免許取得のきっかけを教えてください。

水野:40代になって、平均寿命を考えたらもう人生の折り返し地点だなと思ったんです。それで、今まで受けたご恩をどうやって返そうかと考えていた時に、作詞家の阿木燿子さんから頂いた「自分が年を取った時に若い人にお返しすればいいの」という言葉を思い出しました。それで、具体的な目標はなかったのですが、「学ぶ中、何か見つかるだろう」と、女子大に編入。そこで幼稚園教諭を目指している同い年の女性に出会い、勢いで私も資格を取ることになりました。

堀川:実際に学んでみていかがでしたか?

水野:学ぶことで子どもの捉え方に大きな気づきがありました。ある先生が「子どもってとっても素敵な生き物なんです」とおっしゃったんです。私はそれまで、子どもというのは大人より未熟なものだという意識があったんですが、子どもは地球に生きる仲間なんだと目から鱗が落ち、覚醒しました。
さらに、息子が幼稚園の時のことも思い出しました。ある時私が園庭の隅で息子を着替えさせようとしたら、事務のおばあちゃまが着替えが見えないよう配慮してくれたんです。子どもの人権をちゃんと守ろうとしてくれていたんですね。
今は息子が通った幼稚園でボランティアとして補助に入っているのですが、そういうことを念頭において、かつ自分が3月末生まれで幼稚園時代は苦い思い出や不安ばかりだったので、特に早生まれの子に対して、理解できているか・不安に感じていないかを気にしながらお手伝いしています。

堀川:読者の方へメッセージをお願いします。

水野:親御さんの生活スタイルで地域差があり、それによって求められる支援も違ってくると思います。だからこそ、この地域では何を補うべきか、この子にはどんな言葉や声掛けが大切かといったことを考えていってほしいと思います。
保育士さん達が大変なのはその通りですが、親御さんもいっぱいいっぱい。その分まで園で温かい時間を作れたらいいですよね。そのために園側も、保育士さん達の負担が軽くなるようにしてほしいです。
そうやって“素敵な生き物”との関わりを皆で大切にしていきたいですね。

(MiRAKUU vol.52掲載)

水野 真紀(みずの まき)
  • 水野 真紀
  • 俳優

    東京都出身。
    1987年「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞し、NHK朝の連続テレビ小説「凛凛と」でデビュー。
    48歳で聖心女子大学文学部教育学科に入学し、50歳で幼稚園教諭一種免許を取得。52歳には保育士試験にも合格。
    株式会社JPホールディングスの社外取締役も務める。

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