2022.10.17
MiRAKUU対談

子ども達の健康、笑顔はSDGsの項目の中に入っているんです──村山敏夫さん

子ども達の健康、笑顔はSDGsの項目の中に入っているんです──村山敏夫さん

子どもの体力の低下は機会の減少

堀川:どうして大学の教授になろうと思ったのですか?

村山:私はもともと行政や病院で働いていて、地域や世の中が健康になるためにはどうしたらいいのかという研究をしていました。実際に社会課題の多さに直面し、解決して実装していくための苦難を感じて、もっと高度な研究をしながら社会課題に取り組んでいきたいと思ったのがきっかけです。
今研究しているのは、体の運動機能です。ただこの解析だけでは社会課題の解決にはなかなか繋がらないので、もう1つの柱として健康な社会を築くための仕組みの構築を研究しています。

堀川:子どもも社会の一要素ですが、昔に比べて子どもの運動能力が低下しているとよく聞きます。これは本当なのでしょうか?

村山:低下している項目としていない項目があるんです。ジャンプ、物を持ち上げる、長く走るなどの基礎体力はそれほど低下していないんですよ。低下しているのは、ジグザグに走る、バランスを取るなどの調整力です。
ずいぶん前ですが、今の子ども達は毬つきができない、平均3回だとTVの特集番組でやっていました。本当かなあと思って新潟市内で調査したところ、なんと2回だった。これには驚きましたが、続けて繰り返しやるとできるようになるんです。つまり、今までやったことがないからできないということ。体力が低下したというよりも、その体力に関わる場面や機会が減ったから数値が低下したのではないかと思います。


堀川:機会がないのは今の時代に必要がないからと捉えることもできそうですが、その体力がないことでどんな問題があるのですか?

村山:幼児期は感じないでしょうが、就学するとだんだんその体力のアンバランスさが影響してきます。体育などでできないことが増え、周りから比較され、笑われたりして、運動が嫌いになってしまったりするんです。子どもの時の運動の好き嫌いの結果がどこに生じてくるかというと、大人になった時の健康度合いです。

堀川:中年でメタボになるとか、歳を取って寝たきりになってしまうなどですか?

村山:長い人生のスケールの中でいうと影響してくるでしょうね。運動することは大切です。身体活動量を高めるのも大切です。ただそこで重要なのは、楽しく自主的にやるということなんです。やらされすぎが運動嫌いに繋がることもあります。運動は楽しいんだという感覚を持ち続けてもらう仕組みを作ることが、結果的に運動を続けることに繋がるのではないかと思います。

堀川:子どもの頃の体力が運動嫌いや将来の健康に関わってくるのですね。小さいうちに色いろな体力を付ける機会を作る環境も大切なのですね。

体操には演出が必要!?

堀川:その仕組みの1つが、先生が考案したPARTY体操キッズですか?

村山:はい。この体操には、必要だと言われている運動の要素36項目のうち、より重要だと思う要素を組み込んでいます。この運動によって必要な運動要素を補うことができます。

堀川:調整力も身に付けることができますね。

村山:こういった「良い体操」というのは世の中にたくさんあるんですが、単に体操しましょうというだけではあまりうまくいかないんです。そこで、演出が必要になってくると思います。

堀川:演出とはどのような?

村山:1つの手立てが音楽です。音を聞いてリズムに合わせる。そうすると楽しさが生まれ、脳を刺激します。軽い負荷のリズミカルな運動というのは認知機能を高めると言われていますが、それだけではなく、気持ちを高揚させるドーパミンという物質も増えるんです。
今、学生達が保育園や幼稚園に行って子ども達と体操しているのですが、掛け声よりは音楽に合わせてするほうが表情も豊かですし、動きも大きくなっていると思います。

堀川:音楽の力というのは大きいのですね。

村山:また、壁に向かって1人でやるよりも、みんなでやったという演出があると、楽しさが余韻として残りますね。あの時やったこういう運動は楽しかったという記憶が頭のどこかに残っているというのは、子どもの時の発育発達と大人になってからの健康増進に繋がると思っています。

評価をなくすより成長を感じる仕組みを作ることが大切


堀川:運動を嫌いにならずに、生涯運動を続けて健康でいられるということですね。他に楽しく運動をする方法はありますか? どのように子どもに促したら良いでしょう?

村山:かけっこの順位をつけないなど、足の遅い子が嫌な思いをしないようにという配慮は1つの考え方だと思います。ですが、評価自体は必要だと思うんですね。他人との比較ではなく、自分の評価を自分ででき、成長感を得られるものです。昨日できなかった自分が、今日はできるようになった。こういう成長を感じる場面、仕組みを設定するのが一番大切なのではないかと思います。楽しいとか、成長したという感覚。あるいは、自分でやっているという感覚、主体感が必要なんです。まずは楽しさから入る。そして成長を感じる。それがまた楽しさに繋がる。この連続が主体感を促し、さらには運動の好き嫌いだけではなく、壁にぶつかった時に乗り越えよう、チャレンジしようという力に繋がってくると考えています。

堀川:運動でも主体性は重要ですね。最後に、読者へのメッセージをお願いします。

村山:今世の中はSDGsで動いています。子ども達の健康、子ども達が楽しく体操するということも、実はSDGsの項目に入っているんです。SDGsと言われても何ができるんだろうと思っている方もいるかと思いますが、子ども達の成長を担っているという部分で、すごく重要な柱となっている目標に向かって日々関わっているのだということを認識していただきたいです。
そして何が大切かというと、やはり子ども達の笑顔なんです。子ども達みんなが楽しく笑顔でいられる雰囲気を作っていくということ。その手立てとして我々は音楽に合わせた体操を作りました。これをきっかけにして、子ども達が笑顔でいられるような施設運営をしていただけたらいいなと思っています。

(MiRAKUU vol.40掲載)

村山敏夫 経歴
  • 村山敏夫(むらやま としお)


    新潟大学人文社会教育科学系准教授。
    現在はFM-NIIGATAにて「Lecture on SDGs-おしえて村山先生-」、BSNキッズプロジェクト「SDGs deはぐくむコラム」にて執筆を担当。
    学生達とはSDGsライフイノベーション・キッズプロジェクトを展開し、地域の子ども達と裸足で遊べる浜辺づくりやオンライン運動会を実施しながら楽しく身体活動量を高める仕組みづくりにも取り組む。
    教育・健康・パートナーシップに関する仕組みづくりを中心に研究を進め、特に健康社会デザインや地域デザインに関心が高い。

  • 『タオルで楽々!カラダほぐれる!健康 PARTY体操』
  • 『タオルで楽々! カラダほぐれる! 健康 PARTY体操』
    村山 敏夫(著)
    主婦の友社(出版)