まちの保育園 南青山──アートを通して自分を表現し、理解し、共に育ち合う
まちの保育園 南青山さんについて教えてください。
今年4月にオープンしたばかりの新しい園です。今年は0~2歳のみの受け入れで現在21名います。年々受け入れ年齢を拡大し、最終的には0~5歳児で64名定員となる予定です。
私達は北イタリア発祥の教育「レッジョ・エミリア・アプローチ」に共感し、まちの保育園全体としても学び合い、実践しています。同アプローチが創造性を大切にしているということもあって、私達もアートを大切にしています。これは何か作品を作るというのではなく、自分の考えの表現、コミュニケーション、言葉としてのアートです。
また、私達は五感を使うことでその感情の揺さぶりと共に学びが定着すると考えています。体の動きと感情の動きは密接に関係しているので、そのどちらもが起きるような環境として、園舎には斜めだったり起伏があったりというデザインを取り入れるというチャレンジをしています。
お部屋の特徴を教えてください。
光の部屋は南に面していてその名のとおり太陽光が入る明るい部屋です。外が見える場所なので、自分達が見る外の世界を子ども達が変えたり、子ども達がいる中の世界を天気や時間によって変えたりしてくれるという、境界を越え合うようなエリアだと考えています。
隆起のある床は、ここで子ども達がどんなことをしたくなるかを考え、色いろな身体性が生まれるような場所として、転がるもの、転がらないもの、転がり方に特徴があるものなどを置いています。
またここは「描く」が特徴のエリアでもあります。体を動かした時にその軌跡で描けるようなリボンや紐、外光の影響が大きい場所なので影がきれいに出るような素材も用意しています。自分が描いた線が残るような「描く」ができるエリアもあり、どんな素材を使って描くかによって考えられることも変わってくるので、色いろな素材を提案しているところです。
ピアッツァは広場です。人が行き交って偶然に出会うこともあれば、そこに留まっていることで見たいものを見られるような場所でもあります。ここはちょうど園内の中央でキッチンもあるので、自分の生きる世界をもう1回再構築できるような空間としてデザインしています。
たとえば、家族との生活を再現できるおままごとコーナーや、もっと小さい世界を作るという意味で積み木やフィギュアを置き、自分が暮らす世界を家とは違った外の世界として創造することができる場を用意しています。また、プロジェクターからの投影を掛け合わせた空間もあります。
音の部屋は0歳児の部屋です。ピアッツァ・陸起のエリアでは何も隔たりがない分音も筒抜けで、子どもの移動が多い空間でもあるので、逆に音の探究をしづらい場所でもあるんですね。
お母さんの声がする方を見たいから首を動かせるようになった、何かが手に触れて音が鳴った、鳴るから手を動かしたなど、0歳児の発達に音は大きな関連があると私達は考えています。こういった音の探究をするにはどこがいいか考えた時の最適解がここでした。
いずれの場所でも、子どもが何をしたいかを考え、幾通りも使い方を考えられる、探究していけるような素材を選んで置いています。私達は何かを意図して置くことが多いですが、子ども達はそれを越えた探究をしていてとても興味深いです。
幼児は異年齢保育なのでしょうか?
2歳以上は環境を区切るという形で異年齢保育をしていますが、違うグループに分けることもあります。年齢ですっぱり区切るのではなく「この子が安心できる場所」を考えてグルーピングしていきたいと思っています。ただそれは発達や気持ち、どんな学び方をしたいかというので変わってくると思うんですね。①自分でできること ②誰かの手伝いがあったらできること ③誰かの手伝いがあっても全然できないことのうち、②が大きな学びになるので、そこが重なる子同士のグルーピングを心がけています。
保育士さん達が働きやすい環境を作るためにしていることはありますか?
「一人ひとりの存在そのものを喜び、互いに育みあう、コミュニティを創造する」という法人の理念があります。職員に制服がないのは、自分が自分らしくハッピーでいられる服で子どもと関わることができるから。職員の呼び方も自分がどんな風に子どもやご家族に呼んでほしいのかを考えて決めています。世間には先生=教える人という価値観が既にありますが、私達保育者は子どもと一緒に学ぶべきパートナー、コラボレーターであり、保育園はそれぞれが子どもと一緒に学び合う場所だと思っているので、あえて「○○先生」ではない呼び方をとっています。
また、園にはペダゴジカルチームという教育学的な視点から保育に伴走する部門があり、法人内のいくつかの園を回り、各々のコミュニティに根差した教育のアプローチを考えています。レッジョ・エミリアのペダゴジスタを参考に、日本の教育現場でもそんな役割の人がいると保育や子どもの生活がもっと豊かになっていくのではないかと考えチームを発足させました。
保育者が子どもと一緒に学ぶパートナーだとしたら、ペダゴジカルパートナーは保育者と子どもと一緒に学ぶパートナーです。保育者自身が学びたいことをサポートし、共に高め合いより良い保育、教育を目指していけるようにしています。
みんなそれぞれが想いを伝え合えるような関係性を作れればいいなというのは一番に考えています。
この園で育った子ども達に将来どうなってほしいですか?
私はどちらかというと今どんな経験をしてほしいかということを考えています。たとえば子どもがティシュを次々と箱から出すことがありますが、「何かに向かう先のための今の経験」ではなく、そういう今しかやらないようなこと、今興味が持てたことを存分に経験してほしいのです。
ここで大人に見守られながら、思う存分探究し色いろな形で自分を表現していく中で、次の探究へと続いていくと思います。そうして自分で保育者や友達と一緒に夢中になっていることをとことん探究することを通して、「もっと知りたいこと」が出てくるのだと考えています。強いて言えば、そんな風に自らの力で探究したいことを見つけ、探究を深め、人と一緒に学び合う生き方を楽しめるようになってほしいと思います。
今後の展望を教えてください。
毎日の暮らしをこれまでどおり、これからも、大切に豊かにしていきたいです。家庭から小さな社会である保育園に通い始めた子ども達が安心して生活できるようになってきたら、園内にとどまらずコミュニティに派生することを目指していきたいと考えています。毎日起きている子どもの発見や学びが、家族や地域社会との更なる学びへと繋がっていくように発信することを大切にしていきたいと思います。
(MiRAKUU vol.47掲載)
まちの保育園 南青山
住所
〒107-0062
東京都港区南青山二丁目5-17 ポーラ青山ビルディング3階
アクセス
東京メトロ銀座線・半蔵門線/都営大江戸線 青山一丁目駅より徒歩2分
東京メトロ銀座線 外苑前駅より徒歩5分
開園時間
月~土 7:30~20:30
連絡先
email:info6@machihoiku.jp