東大駒場地区保育所──自然の中でのシンプルな保育で子どもの健やかな成長を促す
東大駒場地区保育所さんについて教えてください。
東大駒場地区保育所は、1971年に東大教養学部キャンパス内に開所しました。当時、地域内の保育園が足りず、職場の中にも作ろうという声があがり、教職員組合が設置者となってできた無認可保育所です。その後、職員だけでなく地域の方も受け入れるようになり、さらに東京都の認証保育所制度に移行し、現在に至ります。
どんな保育、カリキュラムなのですか?
「しっかり遊んで育つ」ことを基本としています。大学内にあるという環境からすると意外かもしれませんが、英語教室や体操教室など、直接学校教育に繋がるような勉強はしていません。遊びの中で数を覚えたり、考える力や挑む力などの、学習に向かうにあたっての基本的な姿勢や力を、遊びを含めた活動の中で育むようにしています。
メインとなるのは外遊びです。キャンパス内外の散歩、水遊び、泥遊び、畑仕事などです。子どもにとって、屋外、自然は遊びの宝庫なのです。私達は、太陽や土、緑、水、つまり自然が、元来子ども達の持つ豊かな感性を育み、自主性や好奇心、しっかりとした自我、揺るぎない自信、人間らしい心など、子どもの成長に真に必要なものを身につけさせてくれると思っています。
また、リズム運動を取り入れています。リズムというと、音楽に合わせての遊戯を想像されるかもしれませんが、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類などの動物の基本動作を人体で表現する体操で、五感を使って体を動かします。
自然の中で友達と楽しく遊ぶこと、たくさん体を動かすこと、おいしいご飯を食べること。近年、子育てがだんだん複雑になっていますが、子どもの健やかな成長に不可欠な要素というのは、こういったシンプルなことではないのかと思います。
食へのこだわりはありますか?
やはり体作りの基本になるところなので、食にはこだわっています。野菜は有機栽培のものを使い、だしは天然のものを。もちろん食品添加物や着色料、防腐剤等にも気をつけています。
また、旬のものや季節の味覚も大切にしています。梅林で収穫した梅でジュースを作ったり、お散歩の時に摘んだ野イチゴでジャムを作ったりもするんですよ。塩一つとっても、季節によって味が違うんです。じゃがいもに塩を振って食べ、季節によって違う塩の味、素材本来の味を楽しんでいます。
園の裏の畑では野菜を育てています。じゃがいも、トマト、ナス、キュウリ、さつまいもなどです。今は2歳児クラスが大根を育てています。もちろんこれらの野菜は給食やおやつでいただきます。子ども達が畑の世話をするのですが、畑仕事というのは、収穫は楽しくともその前段階の草むしりや水やりなど大変な労働でもあります。収穫への期待に加え、労働したあとの楽しみとして、6月にみんなで作った梅ジュースを飲んで、次への意欲に繋げるということもしています。
コロナ禍になる前と後で変わったことはありますか?
移動に制限ができてしまい、経験するものが少なくなってしまったというのがあります。以前は電車に乗って高尾山に行ったり、稲作体験で長野県へ行ったりしていたのですが、そういった課外活動ができなくなってしまいました。大きなイベントなので、これらができなくなることが子ども達にどう影響するのかなとは思っています。
そのマイナスを日々の保育でカバーすることになるので、外遊びは日ごろからしていますが、外で活動するということをさらに意識するようになりました。今、片道40分くらいかかる大きな公園までお弁当を持って遠足に行き、遊んで帰ってくるという経験を始めています。少し経験をして、それが実現できるという見通しが立ってきたので、回数を増やしていきたいと思っています。
保育士の質の向上のために行なっていることはありますか?
現在は中断していますが、月に1度先生を呼んで歌や踊りの研修会を行なっています。子どもの心を解き放つ歌も取り入れていて、子ども達の前でしっかりとお手本を見せられるように保育士自身が勉強します。大人自身が見本となって、子どもはそれを見て真似て習得していくのです。
踊りは、民舞(みんぶ)という各地に伝わる民族芸能、例えば青森の荒馬踊り、宮城の虎舞や、沖縄のエイサーなどです。以前北海道のアイヌの踊りをした時は、実際に保育士が北海道に行き、踊りだけでなく衣装やそれにまつわる話なども聞いてきました。先生が学んできた実感を持って子どもに教えているので、パワーアップしている様子を子ども達が生で見て、「かっこいい!」と思うようです。
子ども達から憧れる存在になれるということは、保育士冥利に尽きると思います。
ここに通っている子ども達に将来どうなってほしいですか?
自分の考えを持って、自分自身が社会の中で発言できる、そういう人格者になってほしいと思っています。
今後の展望を教えてください。
今、新しい保育園が増えていますが、土地の関係もあって、園庭がない園、外に遊びに行きたくてもなかなか行けないという園も多いんですね。そういう環境の中で、子どもの体作りという部分をとても心配しています。小さいころは外でしっかりと遊ぶというのが心身ともに育つ基本ではないかと思っています。そういう意味で、自然に恵まれた大学の中にある保育園として、体作りであったり、感覚的なものであったり、自然の中で育まれる力を伸ばす保育を継続できるよう、体制を整えていくのが一つの課題ですね。
東大駒場地区保育所といったら?
自然の中でより豊かな経験を目指し、取り組んでいる保育です。
※今回は新型コロナウイルスの影響を鑑みてオンラインにて取材させていただきました。
東大駒場地区保育所
住所
〒153-0041
東京都目黒区駒場3-8-1 東京大学教養学部 男女共同参画支援施設内
アクセス
京王井の頭線 駒場東大前駅より徒歩7分
開園時間
月~土 7:30~20:30
連絡先
TEL:03-3465-3680