第0回【イントロダクション】
「編集長の堀川です。次回から約2年間に渡り嶋津先生の保育園・幼稚園向けマネジメント研修の連載が始まります。今回は嶋津先生がどんな方なのか、また、連載を通し伝えたい全体像を聞きたいと思います。早速、嶋津先生にお話をうかがいます!」
堀川: 普段はどういう活動をされているのですか?
嶋津: 「育てる側がよくならないと『社会』も『企業』も『人』もよくならない」という想いから、「『あなたのもとで働けてよかった』を全てのリーダーへ」という理念の基に、人を育てられる人を育てる、人の育つ組織を育てるということを仕事にしています。その主たるものが、人作り、組織作りに特化した、リーダーズアカデミーという会員制のビジネススクールの運営です。
この想いの中で『怒らない技術』という本を書き、おかげさまで大ヒットしました。その後、僕も子どもができたというのもあって出版社の方に「怒らない子育て」の話を持ちかけ、おかげさまでこちらも大ヒットしました。こういう経緯もあって、保育園、幼稚園、学校で講演をすることも増 えています。
堀川: 「育てる側がよくならないと~」という想いを持ったきっかけを教えてください。
嶋津: 僕はバブルの最中に就職活動をしたにもかかわらず1社しか内定をもらえなかったのですが、入社後に素敵な上司と知り合って、人生が変わっていきました。そこで、誰に教わるのか、誰に相談するのか、誰と出会うのかによって人生が変わるんだと思ったんですね。売り手市場なのに1社しか受からないような僕でも、教える側がしっかりしていたら変われるという経験をもって、教える側がもっと魅力的で素敵な人になったら、社会も企業も、もっと良くなるのではないかと思ったんです。
堀川: 教える側がどれだけうまく教えられるか、上に立つ側の教え方、教育の仕方というのが重要ということですね。保育業界についてどんな印象をお持ちですか?
嶋津: 保育は重労働ですよね。息子が通う幼稚園を見学してびっくりしたのが、子ども1人だけでも大変なのに、20人30人を1人の先生が見ているということでした。
自分なりの想いやミッションがなければ、給料が安くて重労働の業界で働けません。保育士の給料が安いというのは1つの問題で、人を育てるという大切な立場なのだからもっと手厚くてもいいのにと思います。ただ、国や制度の問題をすぐに変えるというのは難しい。そうなると、今ある環境の中でベストの状態を作っていくしかないわけです。
これも僕の経験ですが、育児で学んだことって経営の役に立つんです。逆もまた然り。それと一緒で、会社の経営の仕方は、保育園の経営にも役立つと思います。
堀川: 保育業界だからこうだというのではなくて、一般企業や、他の業界から良いものを取り入れていくと良いということですね。では、具体的にこの連載でお話いただけることを教えてください。
嶋津: まずは、マネジメントの理解について。アンガーマネジメントですね。僕はよく感情のコントロール=成果のコントロール、感情のコントロール=人生のコントロールという話をします。成果決定には、感情、出来事、意味付け、意思決定、行動、成果というプロセスがあります。毎日を生きていればたくさんの出来事が起きますが、その出来事自体に意味はなく、意味付けをするのは自分の感情が元になっているんです。スタートである感情がポジティブだとポジティブな意味付けをし、ポジティブな意思決定をし、ポジティブな行動をするからゴールである成果が良くなる可能性が高くなる。感情がネガティブならすべてが逆になります。
堀川: 感情のマネジメントで成果が変わるんですね。コントロールできたら楽になりそうです。
嶋津: だから、自分の感情をどうマネジメントしていくかということは、良い成果を出すため、人生を良くしていくためにすごく重要なのです。
次に、リーダーシップについてです。これには、環境マネジメントをぜひ覚えていただきたいと思っています。
「他人は変えられないが自分は変えられる」という言葉を聞いたことはありませんか? 僕も以前社員教育に頭を痛めていた時期があって、その時人材育成に定評がある営業部長さんにお話を聞く機会がありました。そこで、部下が思った通りに動いてくれないことを相談したら、上司は部下を動かすのではなく、部下が自ら動こうとする環境を作ってあげることが大切なのだと諭されたんですね。
たとえば駅のベンチ。今までホームに対して平行だったのに、最近垂直に置かれるようになったんですが、理由を知っていますか?
堀川: そういえば変わりましたね……どうしてですか?
嶋津: 酔っぱらいの線路への転落防止なんです。酔っぱらいが電車が来たと思い立ち上がって前に進み、そのまま線路へ転落……というのを、ベンチからまっすぐ歩いてもホームから落ちないという環境を作ったことで転落事故を大幅に減らしたんです。
堀川: それが環境マネジメントということですね。
嶋津: 酔っぱらいに注意をして変わるぐらいなら注意すればいいと思います。部下だって同じ。でも、言っても変わらないから困っているわけです。それなら、部下がそれをやろう、やりたい、やらなければと思うようにするために、どこの環境をどう変えればいいかという発想をするんですね。
リーダーシップの定義は「人を導く力」。カリスマ性とか、話し上手とか、そんなことは必要ありません。大切なのは、伝える力です。言葉でなくとも環境でもって意思を伝え、相手から必要な行動を引き出すというのは、立派なリーダーシップなんです。
堀川: どう仕組んでいくかということですね。
嶋津: それから、組織目標の設定についてお話します。組織目標の設定は、まず何よりも理念──組織のあるべき理想の姿、存在意義、目的を明確にすることです。幼稚園保育園であれば、何のために、なぜ我われの園は必要なのかといったことですね。そしてその理念を追及するために何をすればいいのかを細かく落とし込んでいくのです。
また、想いやミッションパワーが強い人が多いのが保育業界の特徴だと思うので、子どもが好き! とか、良い教育をしたい! とか、そういった想いを共有して、その中でどういう役割を担ってほしいのか、将来どうなってほしいのかということをしっかり設計をすると良いですね。
最後は、人材育成についてです。人がやる気を出すには、採用、適材適所、教育、リーダー、評価という5つの条件があると僕は思っています。必要な──優秀な、ではありませんよ──人材を採用して、その人達の能力が活きる場を与え(適材適所)、能力を伸ばす教育を与え、その人達を成功させるべく奮闘するリーダーがいて、そして頑張った人達に報いる評価を与える。人を育てるには、この5つにしっかり釘を刺すことだと思っています。
堀川: 保育業界では、保育士がなかなか定着しないとか、教育や人材を育てるのが難しいという話をよく聞きます。保育士さん達はマネジメントの勉強はしてきていないので、園長先生でも苦手な方が多いのかなという印象があります。そういう部分を連載の中で教えていただければと思います。
(MiRAKUU vol.37掲載)
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経歴
教育コンサルタント。上司学のプロフェッショナルとして、国内、海外で講演・企業研修・コンサルティングを行い、メディアにも多数出演。
シリーズ100万部のベストセラー『怒らない技術』(フォレスト出版)をはじめ『子どもが変わる 怒らない子育て』(フォレスト出版)、『7日間イラオコダイエット』(EVO出版)など、著書累計は29冊で150万部を超える。
主な役職として、一般社団法人日本リーダーズ学会代表理事、リーダーズアカデミー学長、早稲田大学エクステンションセンター講師を務める