2024.04.15
\ノガミキ流/保育士働き方改革委員会

第9回 風の森の働き方改革全容解明

\ノガミキ流/保育士働き方改革委員会──第9回 風の森の働き方改革全容解明

働き方改革の講演を通じて多くの方々から質問を頂きました。
働き方改革は実行したいが、どのように進めていけばよいかわからない。採用ができず二の足を踏んでいる。現場のカルチャーを変えていくのに苦労している、等々。悩みは様ざまです。

働き方改革が必要な理由

そもそも、なぜ声高に働き方改革を保育業界全体に推進しているのか?

それは、2019年に働き方改革関連法案が施行され、社会全体が働き方改革を推し進めているからです。
日本は現在、人ロオーナス期(生産年齢人口の割合が低い状態)に突入し、少子高齢化です。労働人口の減少から、どの業界でも人材獲得競争が起きています。そんな中、保育者の人数を増やしていくことは簡単ではありません。
ゆえに、保育業界自体が働き方改革を実施し、ウェルビーイングな(=持続的に良い状態ということです!)業界にしていかなくてはなりません。

元々保育業界は、残業や持ち帰り仕事によって成り立っていた背景があり、今まで当たり前としてきたことを覆さなければならないため、働き方改革が進みにくいのです。
我々風の森は業界に先駆けて10年前から保育士の働き方改革に着手しましたが、現在の満足度になるまでの過程もすべてが順調だった訳ではありません。

今回は、風の森の働き方改革の全容を、段階を追って見ていきましょう。

働き方改革の前に分類を整理

働き方改革を実施する前に理解しておきたい点として、保育園で必要とされている保育士はこちらの図のように3つに分類されます。

保育園で必要とされている保育士の分類

①は子どもの対応をしている保育士です。いわゆる、配置基準になります。昨今この配置基準の変更が大きく取り上げられていますが、保育園としては、さらに園内で子どもの対応以外の仕事を行う保育士(②の部分)や、園全体で雇用しなくてはならない保育士(③の部分)が必要となります。

この、②と③に目を向けないことには働き方改革は実行できません。②と③の部分にメスを入れることで、働き方改革が実現されるのです。

働き方改革の道のりスタート

ただ、風の森がまず行なったのは、①の増員でした。法人設立2年目から働き方改革の実施に乗り出しましたが、まだこの3つをしっかり整理できていなかったため、子どもに対応する保育人員を手厚くしました。
その結果、日々の保育はゆったりするものの、クラス間で手厚いクラスとそうでないクラスが発生することで人間関係が悪化し、働き方も改善されないという事態に見舞われました。

人員増強策その2

そこで、増やした人材を①ではなく③に使うことにしました。

保育園で必要とされている保育士の分類:③の補強

具体的な施策は、完全週休二日制の実現、休憩60分の実現、残業ゼロの実現です。
この時保育士を国基準の1.5倍の配置とし、採用した常勤保育士4名×月160時間=640時間を各項目に充てていきました。
これにより保育士の働き方は大幅に改善されましたが、それだけでは「保育の質」は改善されませんでした。

人員増強策その3

設立6年目には国基準の2倍の保育士配置を実現し、②の部分にもメスを入れました。

保育園で必要とされている保育士の分類:②の補強

具体的には、勤務時間内に研修を月1回4時間受けることができる、グループワークを月2回行うことができる、子どもに関する語り合いの時間を週1回2時間取れるようにする、全ての職員がノンコンタクトタイムを平均1日1時間取ることができる等です。
これにより、風の森は主体的に学び高め合える組織へと生まれ変わりました。

この増員によって学んだことは、漫然と人を配置することへの恐ろしさです。ぼんやりと保育室に人を増やしても全体的なゆとりには繋がりません。貴重な1人をどう活用していくかを現場と相談して配置していくことが非常に重要です。

ICT化による生産性の向上

設立2年目、増員策と同時並行で、生産性の向上のため業務のICT化を図り、②のうち削減すべき部分に切り込みました。

保育園で必要とされている保育士の分類:②の削減、本部集中化・アウトソース化

連絡アプリの導入により、電話対応や紙のお便りを廃止し、時間を削減。クラス毎に数台ずつPCを配布し、月案・個別記録等も手書きを廃止しました。
また、アウトソーシング可能な部分やなくしても良いものを選別し保育業務から切り離すことで、生産性を向上させることに成功しました。

風の森の働き方改革は保育士の増員×ICT化

増員と生産性向上は同時進行が良いと思います。人材の活用と同様に削減された時間をどう活用するかも考えていく必要があります。
このように、保育士増員とICT化を同時に行うことにより、働き方改革の一歩先に進むことが可能となりました。

次回はさらに先に進んだ「ウェルビーイングで持続可能な組織づくり」についてお伝えしたいと思います。
実際に現場で働き方改革を進めてみて蹟いていることやご質問も引き続きお待ちしておリます!

(MiRAKUU vol.46掲載)

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野上 美希
  • 野上 美希(のがみ みき)

    社会福祉法人風の森 統括
    学校法人野上学園 主事
    株式会社野上アカデミー 代表取締役
    一般社団法人キッズコンサルタント協会 代表理事

    大手シンクタンクにて、コンサルティング、採用、営業を経験した後、人材紹介会社にて事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメントする傍ら、女性のための人材紹介サービスの代表も務める。自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わる。
    成長著しい時期である0歳~9歳(シングルエイジ期)においての一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、6つの認可保育園を開設。
    また、キャリアカウンセラー資格を活かし、保育士のための仕事紹介サービス『保育ウィルキャリア』も主宰し、自園以外の保育士のキャリアに対しても寄り添う。幼稚園の採用のみならず、認可保育園を毎年1園ずつ増やす中で、独自の採用手法により、国基準の2倍の保育士確保を実現。現在、業界に先駆けて保育者の働き方改革を実践している。