子どもの可能性を摘まないよう、勉強することを止めないで──西野 亮廣さん
描きこまれた絵が好きな子だっている
編集長:絵本作家として活動するようになったきっかけを教えてください。
西野:25の時ですかね、ちょっとほかのこともやってみたいなと思って。何をするかは全然決めてなかったんですが、テレビの世界から軸足を抜く事は決めてたんです。そんな時にタモリさんに「お前絵描けよ」みたいに言われたんです。
編集長:助言で決まったんですね。絵本は小さいころからお好きだったんですか?
西野:そこまで好きじゃなかったと思います。僕はジブリみたいな、未来少年コナンとかナウシカとかラピュタとか、ああいう類のものが好きだったんですよ。絵本となると、親や先生が、丸っこいふわふわしたものしか与えてくれなくて(笑)。見まわしてみると絵本ってそういうものしかなくて、その時はちょっとやだなぁって思っていました。
編集長:実際に絵本を書くのは大変でしたか?
西野:書くのも大変でしたし、お客さんの読者に届けるのはもっと大変でした。
編集長:どうやって届けようって考えられたんですか?
西野:まず、お父さんお母さんや学校の先生には、子どもに対する圧倒的な偏見があるじゃないですか。僕の絵本はずいぶん描きこんだ絵本なんですけど、最初それを出した時に、色いろなお父さんお母さんから「子どもはこういう描きこんだものは見ない」って言われました。つまり、子どもは丸っこいものとか、ふわふわしたものとか、カラフルなものが好きだからって。でもそれには僕もタモリさんも疑問で。子ども時代の僕とかタモリさんみたいに、描きこんだやつを見たいなあって思っている子どもが多分どこかにいるはずだと思ったんですが、財布のひも握っているのはお父さんお母さんなので。そこで、絵本と一緒に「絵本をこういう風に届けましたよ、こういうふうに作りましたよ」っていうビジネス書を出したんです。そのビジネス書と一緒に絵本を買ってくれたビジネスマンのお子さんに刺さったっていう感じですね。むちゃくちゃ遠回りしましたが、そうしないと届かなかったですね。
「ネタバレ」が絵本購入のスタート
編集長:苦心されたんですね。私は初め絵本をweb で読ませていただいたんですが、その頃ってWeb で全文読めるっていうのが他になかった様な気がして。あれはどうやって思い付いたんですか?
西野:やっぱお母さん忙しいし、自由に使える時間とお金は限られてるので、絶対にハズレの絵本は買えないじゃないですか。そうするとお母さんは、自分が子どもの時に読んでもらって面白かった絵本を自分の子どもに買い与えるっていうループに入るんです。本屋さんの平積みには、それこそ半世紀近くもずっと同じ絵本が並び続けていたりするので。結論、絵本ってネタバレしているものしか売れていないっていうことなんです。
編集長:確かに、内容がわからないものは子どもに買い与えませんね。
西野:だから、家の中で立ち読みができる状態にして、まずはタダで全部読んでもらう。その上で、買うか買わないかはその後決めていただくっていう判断をしました。
編集長:今回その絵本を映画化されるという事なんですけど、いつ頃から練られていたんですか?
西野:2012年頃から準備を始めて、なんだかんだで8年間ぐらいになりました。まず最初に映画の脚本があったんですよ。でも、これをいきなり世に出しても、知らない作品を観に映画館まで足を運ばないだろうと思って。まずはこの『えんとつ町のプペル』の認知を広げなきゃいけないと思って、ストーリーをいっぱい切って、スピンオフとして出したのが絵本『えんとつ町のプペル』。
編集長:なるほど。
西野:絵本は実はスピンオフで、まだ主人公が出てきていない。
編集長:ええ!? では、絵本と映画では違う話で楽しめるっていうことになりますね。
西野:そうですね。
子どものための企画
編集長:幼稚園保育園でプペルダンスを踊るという企画を聞いたのですが。
西野:登美丘高校ダンス部顧問のakane さんっていう、超一流の振付師の方が、プペルダンスを各幼稚園の先生にオンラインで無料で教えるという企画をやってますね。子ども達にダンスを踊ってほしいから、好きになってほしいからということで、活動されています。
編集長:「こどもギフト」というのもやられてますよね? 具体的にどういう活動なんですか?
西野:『えんとつ町のプペル』の絵本を毎月1冊プレゼントするという活動です。今850名の大人がいて、毎月850冊が国内外の子ども達にプレゼントされているんですけど。僕が個人でずっとそういう活動をしていたら、僕がやっているオンラインサロンのメンバーさんからもやりたいという声が結構あがったんで、これは一つのプロジェクトとして進めることになりました。
編集長:素敵な活動ですね。参加したい人はどうしたらいいですか?
西野:検索していただいたら出てくると思います。「えんとつ町のプペル『こどもギフト』」で。
勉強することを止めない
編集長:絵本を作る時、ストーリーはどうやって生まれてくるんですか?
西野:何かが降ってくるみたいな天才めいたものはなくて、もう本当に絞り出しています。あっち探って、こっち探って、ちょっとこれ膨らましたらいけるかも、みたいな地味な作業ですね。ただ、そういうものを掘り起こすには、普段からむちゃくちゃ勉強しておかなきゃいけないし、たくさんの景色を見ておかなきゃいけない。素材をたくさん持っておかないといけないんだろうなって思いますね。
編集長:最後に、子ども達に教えている先生方に向けてメッセージをお願いしてもいいですか?
西野: 勉強することを止めないっていうことだと思います。基本的にみんな、自分の知識を超えることは、潰しにかかっちゃうので。知らないっていうことと、嫌いっていう感情はすごく近い位置にあって。例えば僕、2012年にクラウドファンディングでNY の個展の資金を集めたんですが、もう大バッシングでした。クラウドファンディングってなんか怪しい、宗教みたいなやつだろう、って(笑)。やっぱ日本人が知らなかったんで。とにかく知らないものをバンバン叩いちゃう。
先生もご多分に漏れず、先生の知識が不足していると子どもの可能性を潰してしまうから。よくわからないけどやめとき、みたいな。教える立場って恐ろしいですよ。無知のまま教えちゃうと、自分の知らないところでいろんな可能性を摘んじゃうので。やっぱ教育者はむちゃくちゃ勉強したほうがいいと思います。
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西野 亮廣(にしの あきひろ)
1980年兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。
著書は、絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』、小説に『グッド・ コマーシャル』、ビジネス書に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『バカとつき合うな』(堀江貴文氏と共著)『新世界』があり、全作ベストセラーとなる。 最新作絵本『チックタック~約束の時計台~』、最新文庫『新・ 魔法のコンパス』も大きな話題を呼んでいる。
2020年12月25日公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。
クラウドファンディングでの合計調達額は4億円を突破。オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」 は会員数7万人を超え、国内最大となっている。 芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。ホームページ:https://salon.jp/child_gift
ホームページ:https://poupelle.com/