第10回 年金事務所の調査(1)
社会保険労務士事務所リーフレイバーコンサルティング代表の川﨑潤一です。
今回は、すでに社会保険に加入している企業に対する年金事務所の調査がどのようなものであるのかについて解説いたします。
社会保険に未加入となっている企業だけでなく、すでに加入している企業に対しても調査はあります。
労働基準監督署や税務署と主旨としては同じ、正しく法令に基づいた運用・手続を行っているのかが問われます。
具体的には、漏れがないかを見られます。
漏れとは、下記の2点です。
- 加入すべき従業員を正しく加入させているか(加入漏れがないか
契約社員、パート、業務委託について
- 給与を少なく申告していないか
給与の総額で手続しているか、月額変更の届出漏れ、賞与支払届の届出漏れ、
複数事業所からの報酬を合算して届出しているか
調査の種類
社会保険に加入済の企業に対する調査の種類としては、下記の4種類です。
- 新規適用調査
- 総合調査
- 算定調査
- その他事故調査
では、今回は新規適用調査について解説いたします。
既存企業への調査その1 新規適用調査
新規適用調査とは、社会保険に加入したばかりの企業に対し、加入から3か月以降のどこかで入る調査となります。
タイミングとしては、おおむね加入から3か月~1年です。
この調査は、新規に社会保険に加入したばかりの企業であるため、手続について漏れや誤り(実態とは異なる手続きをしている)がないかの確認を目的としています。
調査で確認される事項
まずは、年金事務所へ届出ている給与額と実際支給している給与額とのそれほど差がないかどうかを確認されます。
- 実際の給与支給額、賞与支給額にもとづき手続きできているか
社会保険料は、月額給与の総支給額をもとに保険料が決定されます。
加入の際に、従業員ごとの月額給与の総支給額を記載し提出しています。
この提出の際に、誤った金額や故意に実際よりも少なく金額を記載して提出することで、保険料を不当に安くしていないかどうかを確認されます。
賞与の支給があるのであれば、賞与支払届の提出の確認や社会保険料天引き額についても確認されます。給与の支給額については、賃金台帳をもとに確認されます。
- 社会保険料の給与からの天引き額(従業員負担)について
給与から天引きしている社会保険料が、正しい金額となっているかどうかも確認されます。
社会保険料は会社と従業員が折半負担となりますので、従業員の負担額が会社よりも多いと間違っていることとなります。 - 加入すべき人が全員加入しているかどうか
法令上の加入すべき要件を満たしている人について、全員加入の手続がされているかを確認されます。
簡単に説明しますと、常勤の役員(報酬の支払いあり。報酬0円であれば未加入でよい)、フルタイムの正社員・契約社員、正社員に比べて週の所定労働時間と月の所定労働日数の両方が4分の3以上となっているパートアルバイトについては、加入義務があります。
特に微妙なのがパートアルバイトです。
「正社員に比べて週の所定労働時間と月の所定労働日数の両方が4分の3以上」という要件を満たしているかどうか、ここがポイントです。
では、年金事務所職員は、どのようにしてこのポイントを確認しているかです。
下記2つの点が確認のポイントです。
- 雇用契約書における週の所定労働時間と月の所定労働日数がどのくらいとなっているか
- 実際の労働時間と労働日数がどのくらいとなっているか(タイムカード・出勤簿において確認)
優先されるのは、2番の「実態としてどうなっているのか」です。
例えば雇用契約書においては、社会保険の加入要件を満たさない条件となっていたとしても、あくまでも実態で判断されますので、タイムカード・出勤簿において加入要件を満たしていると判断される場合には、加入させなければなりません。
ここで、問題となるのが下記のような場合です。
「雇用契約書においては加入要件を満たさない雇用条件となっている。しかし、たまたま繁忙期に該当し、本人との話し合いの上でこの時期だけは加入要件を満たした労働時間・労働日数となってしまっている」という場合に、果たして加入させなければならないかどうか。
この場合が非常に微妙となりますが、「たまたま繁忙期だけ加入要件を満たしてしまい、通常は満たさない」といえる状態にあるかどうかです。
たまたま繁忙期だけ満たしているということであれば、ある一時期だけ4分の3以上の労働時間・労働日数となっているはずです。
毎週・毎月のように(ようは継続的に)4分の3以上の労働時間・労働日数となっているのであれば、繁忙期だけの一時期だけとは言えなくなります。
あくまでも一時的と言えるためには、加入要件を踏まえた労働時間の管理が必要となります。
当然ですが新規に加入する際から、適正な手続き・運用をする必要があります。
加入漏れが発覚し、過去から加入すべきであったとされた場合には、過去分も遡及されることとなります。
過去から遡及して加入となりますと、その分の保険料負担や手続きが必要となり、会社も本人にも大きな負担となりますので注意が必要です。
次回は、総合調査について解説いたします。
- 川﨑 潤一
社会保険労務士事務所リーフレイバーコンサルティング 代表
株式会社ヒューマンブレークスルー認定ESコンサルタント、全国社会保険調査対策協議会会員財閥系子会社、医療事務・介護事業会社の人事として、採用・給与計算・労働保険手続きを担当し、2011年4月1日に社会保険労務士事務所リーフレイバーコンサルティングを開業。
ハローワークにて「助成金支給申請アドバイザー」として、窓口で支給申請の受理手続き(約700件)、相談・アドバイス、不正受給防止のため事業所への実地調査を行った経験がある。
その勤務経験から、企業に対して現状と今後の展望をヒアリングした上で、最適な助成金の提案・手続きを行っている。社会保険労務士として、労働社会保険手続き、助成金手続き、就業規則の作成・改定、給与計算、セミナー講師を行う。
その一方で、人事マンの経験を活かし人事コンサルタントとして、採用コンサルティング、従業員満足度(ES)調査・向上コンサルティング、マネジメント能力向上研修(マネージャーMQ)、社会保険調査対策、人事制度構築といった人事コンサルティングにも力を入れている。ホームページ:http://www.leaf-sr.jp/